大怪我

大怪我①

今日は日曜日。


リアンも学校は休みだ。


いつもなら学校へ登校しているこの時間、リアンは未だベッドの中で眠っている。


しかし、何かを叩く音で目が覚めてしまった。


何やら屋根の上から物音が聞こえる。


何事かと思ったリアンは、一階へと降り、外に出て屋根を見上げた。


屋根の上には、トンカチを握るジャンの姿があった。


「よっ!起こしちゃったか!?」


日曜日でも、ジャンは朝からハイテンションだ。


「何してるの?」


「いや、昨日の夜中、風が吹いてただろう?それで屋根が飛ばされたから修理してるんだ!」


「危ないよ」


リアンは不安そうにジャンを見詰める。


「大丈夫だって!…それよりちょっと、台所のシチュー見てきてくれないか?今煮込んでるんだ!」


「…うん、でも気を付けてね」


何か後ろ髪引かれる思いがあったものの、リアンは台所に行き、シチューの鍋をのぞき込んだ。


シチューは実にうまそうに煮込まれている。


リアンがシチューを味見しようとした時、外から地響きと共に物凄い物音がした。


嫌な胸騒ぎがしたリアンは、急いで外へと飛び出した。


「いてててて!!」


そこには地面に座り込んでいるジャンの姿があった。


どうやら屋根から降りる時に、ハシゴから落ちてしまったようだ。


「…大丈夫?」


リアンは優しくジャンの肩に手を掛けた。


「…大丈夫、大丈夫」


ジャンは立ち上がろうとした。


「痛っ!!」


しかし、どうやら腰を痛めてしまったようだ。


ジャンはリアンの肩を借りて、酒場の中に入った。


「ちょっと、待ってて」


リアンはそう言うと、湿布薬を持ってきて、ジャンの腰に貼り付ける。


「…病院行く?」


今日は日曜日、病院も休みだろう。


ジャンはそれを考えて答えた。


「…大丈夫…寝てれば夜には動けるさ」


「…本当?」


「あぁ…いててて」


胸を張って言ったジャンは、また腰を痛めたようだ。


「…それより参ったな…今日酒を仕入れに行く日だったんだけどな…」


ジャンは誰に聞かせるでもなく、独り言を呟いた。


「僕、行ってこようか?」


「…車がないと遠いぞ……でもな、あの酒がないとな…頼んでいいか?」


ジャンは、申し訳なさそうな表情をしている。


「…あのお酒って、あのお酒だよね?…うん!買ってくる!」


リアンは地図と代金を貰い、ジャンをベッドに寝かせると、隣町にある酒屋へと向かった。


ジャンの車で何度も行った事がある店だ。


迷うはずはない。


リアンはそう思った。


車で行けば、三十分程で着く場所。


しかし、歩くとこんなに遠いのか。


歩き始めて一時間、まだ半分も来ていなかったリアンは、そう思った。


しかし、なんとか酒屋に着いたリアンは、目的の酒を買い、帰り道を急いだ。


リアンが買った酒は、フェルドの前の代の、酒場のマスターだったエルラが大好きだったウィスキーだ。


今日は、そのエルラの命日。


エルラの命日には、街を去った昔の常連客も戻ってくる。


そして、酒場でエルラの好きだったウィスキーを、もうけなしの無償で振る舞う習慣が毎年行われているのだ。


リアンが酒場に着いた頃には、もう、夕方になっていた。


「…リアン!」


酒場に入ったリアンを、店の中で待っていた昔の常連客が呼んだ。


「ん?どうしたの?」


「マスターが屋根から落っこちて、足を折って、今病院にいるぞ!」


「えっ!!」


リアンはウィスキーを置くと、慌てふためきながら病院へと急いだ。


病院に着いたリアンは、『本日休業』の札の掛かったドアを叩き続ける。


するとドアが開いた。


ドアを開けて出てきたのは、酒場の常連客のジョアンだ。


「リアン、マスター足の骨折っただけだからな。そんなに心配するな」


泣き出しそうな顔のリアンにそう言うと、優しく肩を抱き寄せ、ジョアンは病室へと案内した。


病室の前には、酒場の常連客達が溢れている。


「俺達、追い出されちゃったよ。」


常連客の一人が笑顔で言った。


笑っているところを見ると、どうやら命には別状ないようだ。


リアンはドアを開け、病室へ入った。


すると、ベッドに寝そべるジャンと、その傍らで椅子に座っている老人が、何やら話しをしているのが目に入った。

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