親友との別れ

親友との別れ①

「行ってきます!」


朝食を済ませたリアンは、学校へと向かう。


そして商店街を抜け、いつものように坂道の前で足を止めた。


しばらくそこで待っていると、ドニーが向こうから歩いて来るのが見えた。


しかしドニーは、いつものような元気がない。


「ドニーどうしたの?…病気でもしたの?」


リアンは心配になり聞いた。


「ううん…リアン、俺ずっとリアンに言いたかった事があるんだ」


ドニーは、いつもは駈け上がる坂道を歩きながら話し始める。


「…何?」


リアンはドニーの真剣な顔付きが心配でしょうがなかった。


「…俺ん家、この街を出るんだ」


「えっ!?」


「…今日でリアンとは、さよならなんだ」


ドニーは鼻水と涙を、長袖の裾で拭った。


「…嘘だよね!」


いつもドニーに嘘を付かれているリアンは、嘘であって欲しいと願いながら言った。


「…嘘じゃないよ…ごめん…ずっと言えなくて」


ドニーの目からは、長袖では拭えない程の涙が流れている。


「………」


リアンも涙が止まらなかった。


「…だから…今日で秘密基地とも、さよならだね」


ドニーは、涙顔を隠すように俯きながら言った。


「…うん」


それからリアンとドニーは、しばらく無言になった。


そうしているうちに、二人の足は学校へと着いた。


そして誰もいない教室のドアを開け、お互い視線を逸らしたまま、各々の席へと座る。


ライアが来るまでの間、どちらも口を開こうとはせず、視線も合わさない。


受け入れたくない現実に、お互い掛ける言葉がないのだろう。


重苦しい空気が流れる中、教室のドアが開かれた。


入ってきたのは、ライアだ。


「…起立、きおつけ、おはようございます」


日直のドニーは号令を掛けた。


しかしいつもより元気がない。


それに気付いたライアは、非難するような視線をドニーに浴びせる。


「着席」


ドニーは溜息混じりにそう言うと、力無く椅子に座った。


「ドニー君、今日は病気でもしてるの?」


眉をぴくぴく痙攣させ、ライアは尋ねる。


「…してません」


「じゃあなんですか!?その元気のない掛け声は!」


毎日感情が違うライアは、どうやら今日はヒステリックな日のようだ。


ドニーが返事をせずに、俯く中、リアンが口を開いた。


「…先生…先生はドニーが転校すること知ってたんですか?」


「知ってたわよ!!それが何!?」


ライアは目を吊り上げ、教卓を叩いた。


「…なんで教えてくれなかったんですか?」


「あなたにそれを教える義務なんてないの!」


「なんでですか!?」


リアンは初めてライアに食って掛かった。


「先生に歯向かうんじゃありません!こっちにきなさい!!」


ライアは右手を振りかざし叫んだ。


「…逃げろ!!」


ドニーは、リアンの手を取った。


そしてドニーは、リアンの手を掴んだまま、駆け足で教室を出て行った。


「…あぶなかったな」


秘密基地に着いたドニーは、肩で息をしながら言った。


「…うん!」


リアンも息を切らしている。


そして二人は、顔を見合わせて笑いだした。


今日初めての笑顔だ。


「…なぁ、リアン。このまま学校に戻ってもお尻叩きの刑が待ってるだけだから、このまま秘密基地にいようぜ!」


ドニーが穴だらけのソファーにドカッと座った。


「うん!」


リアンもドニーの横に腰掛けた。


この秘密基地は空き家を改造して、リアンとドニーが数日掛けて作った基地だ。


ソファーをごみ捨て場から拾ってきたり、穴の空いた壁を板で塞いだりと、思い出いっぱいの場所。


部屋の中には、ロープと木で作られたブランコが揺れている。


立ち上がったドニーは、リアンと一緒に作った、その思い出のブランコに乗り、口を開いた。


「リアン、ピアノ聴かせてくれよ」


「うん」


リアンはゆっくりとピアノに近付くと、鍵盤に指を這わせる。


そしていつものように、アップテンポなリズムの曲を奏でた。


ドニーはブランコをメトロノームのように揺らし、リズムをとっている。


曲調が、悲しいものへと変わった。


ブランコを揺らしていたドニーの目からは、勝手に涙が溢れ出している。


その思いと同じリアンも、ピアノを弾きながら涙を流した。


二人だけを包む悲しいメロディーが、秘密基地に響き渡る。


そしてそのメロディーは、突如終わりを迎えた。


演奏を止めたリアンの元へ、ドニーは駆け寄った。

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