寂れた商店街③

うっとり顔のドニーは、急に踊りだした。


リアンが曲調を、悲しい雰囲気から陽気なものに変えたのだ。


「イェーイ!ウバウバ!」


ドニーは変てこな掛け声を入れながら踊りまくった。


そんな仕草を見て、吹き出しそうになるのを堪えながら、リアンはダンスに合わせてピアノを弾き続ける。


しかし、そんな楽しい時間もそろそろ終わりの時間が迫ってきた。


リアンは店の手伝いがある為、この秘密基地には一時間しか居ないと決めていたのだ。


今日は酒場は休みだったが、二人はいつもの時間になり、帰る事にした。


帰り際、ドニーは滅多にしない真剣な顔付きになり、リアンに何か言おうとし、口篭もった。


「どうしたの?」


「…リアン…やっぱりいいや」


ドニーは作ったような笑顔を浮かべ、顔の前で大袈裟に手を振った。


「…何?」


先程のドニーの真剣な顔を見て、リアンは何を言おうとしたのか気になって仕方がなかった。


しかし、ドニーは苦しそうな笑顔を浮かべるだけで何も言わない。


「さあ、帰ろう!競走だ!」


ドニーはリアンに背を向けると、一人駆け出す。


後ろ髪を引かれる思いがあったものの、リアンも後を追い、恒例の駆け足競争で帰って行った。


「ただいま」


リアンは酒場の入口を開けると、テーブルの前に座っていたジャンに向かい挨拶をした。


「おう!おかえり!」


ジャンは笑顔でリアンを出迎えた。


なにやら店の中には食欲をそそる匂いが広がっている。


しかし、店の中には料理らしき物は見当たらない。


どうやら住まいである、二階から漂っているようだ。


「もしかして、今日はごちそう?」


リアンは嬉しそうに笑顔を浮かべた。


「当たり前だろ!たまの休みの日は、恒例のごちそうパーティーだ!」


ジャンは両手を開き、ポーズを決めながら、にんまりと笑った。


「まだ作ってるから手伝ってくれるか?」


「うん!」


二人は二階に上がり、料理を一緒に作り始めた。


酒場が休みの日には、決まって料理を手伝うリアンは、馴れた手付きでジャガイモを剥き始める。


「どれどれ味見するか」


ジャンは、コトコトと煮える仕込み中のスープを皿一杯によそうと、ふぅふぅしながら一気に平らげた。


「うまい!さすが俺!」


味見と言いながら、一人前のスープを平らげる辺りは、食いしん坊のジャンらしい。


二人はいつものように、お喋りしながら楽しげに料理を作り続ける。


そして夕方の六時には料理は完成した。


並べ終えたテーブルの上には、所狭しと料理が置かれている。


とても二人で食べるとは思えない程の量だ。


ゆうに五人前はありそうだ。


ジャンはビールをグラスに注ぎ、リアンはジュースを注ぐ。


そして二人は乾杯し、今宵の宴が始まった。


「リアン、馴れ初めっていうのはな、今日一日考えてたんだが、出会いみたいな事をいうんだ」


「出会い?」


「うん出会い…今朝お前の両親の馴れ初めの話、しようとしてただろう」


「…うん」


「お前の両親は運命的に出会ったんだ」


「運命ってなに?」


「……」


ジャンは運命の意味を考え始め、また固まった。


「…パパとママの馴れ初め教えてよ」


固まるジャンを見て苦笑いを浮かべたリアンは、話しを変えた。


「…ん?あぁ…リアンはフェルドがこの町に来た理由は知ってるよな」


「うん知ってるよ。画家を目指して旅してたんだよね」


「うん、そうだ…それで花屋で働くソフィアを見掛けて、この街に留まったんだ」


「…ママを見掛けて?」


「そうだ…ソフィアはこの街でも有名な美人だったからな…実は俺も…うぅん!」


ジャンは言いかけて、慌てて咳払いをした。


危うく、ソフィアに惚れていた事を、言いそうになってしまったのだ。

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