寂れた商店街②
ライアはリアン達を横目でチラリと見ると、教壇へと向かった。
二人は背筋を伸ばし、ライアが教壇に辿り着くのを静かに待った。
「起立!きおつけ!おはようございます!」
軍隊ばりの大声で叫ぶドニーの号令の元、リアンは背筋を伸ばし、規則正しく頭を下げる。
「着席!」
ドニーの合図で、二人は椅子に座った。
「…おはようございます」
二人とは対照的に、ライアは静かな声で挨拶を返す。
そして直ぐさま二人に背を向けると、古ぼけた黒板に文字を書き出した。
ライアの背中を見たリアンとドニーは、互いに顔を見合わせ、静かに溜め息を吐いた。
二人の様子からして、ライアが厳しい教師である事が分かるだろう。
ライアは日によって感情が違う女性である。
今日はおとなしい日。
二人はそう思った。
そんな彼女は、黒板に機械的に文字を書く作業を進めている。
「…リアン」
「しっ!」
リアンはドニーの問い掛けを遮った。
ライアに見付かりでもしたら、お尻叩きの刑に処せられる事が分かっているようだ。
「ドニー君、ちゃんとノート書いてるの?」
ライアは黒板に文字を書きながら、振り返る事なく尋ねた。
「はい!ちゃんと書いてます!」
ドニーは立ち上がり叫んだ。
その手からはびっしょりとした汗が染み出てきている。
「分かったは、座りなさい」
その言葉を聞き、ドニーは椅子に腰掛けると、リアンに向かい無理やり笑顔を作った。
しかし、ドニーの笑顔はひきつっている。
リアンは怒られたくない一心で、ノートをテキパキと書いていった。
授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。
「…では、終わります」
ライアは静かにそう言うと、二人に視線を送る事なく教室から出て行った。
「あぶなかった!」
そう言ったドニーは、台風が去ったかのような、安堵した表情をしている。
「あぶなかったね」
リアンは自分が注意されたかのように、未だ緊張した顔付きをしている。
そんなリアンの表情を見たドニーは、溜息を付くと、自分のお尻を優しく撫でた。
数日前、ライアのご機嫌を損ねたドニーは、お尻叩きの刑を喰らったばかりだったのだ。
痛みは既に引いているのだが、ドニーはお尻が痛いような気がした。
「なぁ、リアン学校終わったら秘密基地に行こうぜ!」
ドニーは自分のお尻を、まだ擦っている。
「うん、いいよ」
リアンはその仕草を見て、可笑しそうに笑った。
そして今日の授業は、ライアのご機嫌を損ねる事なく、無事に全て終わった。
姿勢を正し、ライアに別れの挨拶を済ませると、二人は秘密基地へと向かった。
秘密基地とは、数年前に店を畳んだ、町はずれにぽつんと一軒だけ建っている、元楽器屋の建物の事を言っている。
今は窓ガラスが割れている空き家だ。
二人は数ヵ月前からここで、毎日のように遊ぶようになっていた。
「リアン、ピアノ弾いてくれよ!」
秘密基地に着いた途端、ドニーは言った。
笑顔で頷いたリアンは長袖を捲ると、ピアノの鍵盤に指を這わせる。
そして勝手に動く指先に任せ、即興で作った曲を奏で始めた。
ドニーは耳を澄ませ、目を閉じ、うっとりとしている。
今リアンが弾いているピアノは、空き家だったこの店に元からあった物だ。
見た目はだいぶ痛んでいる。
おそらく楽器屋だった主人が金にならないと思い、持っていかなかったのだろう。
ドニーはこの場所に来る度、リアンにピアノ演奏をせがんだ。
見た目は芸術がわかりそうな顔をしていないが、リアンの演奏を聴く度、うっとりとしているのだ。
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