寂れた商店街
寂れた商店街①
リアンは酒場がある商店街を、いつものように歩いている。
朝の今の時間、店を開けている所は、ちらほらとしかない。
いや、それは朝の時間帯だけではなかった。
ジャンの話によれば、この商店街も昔は常に人で賑わっていたということだ。
しかしジャンがまだ子供の頃に起きた地震が原因で、土壌が崩れ、水が汚れてしまった為に、この街で盛んに行われていた酒作りができなくなってしまったのだ。
そのせいで、酒を作る酒蔵も全てなくなってしまい、この街の人口も半分以下になってしまった。
酒職人に頼っていたこの商店街にある店も、何件潰れたことだろう。
リアンはこの、過去の遺物になりつつある商店街を歩く度、寂しい気持ちに襲われていた。
同級生の子の家が、ここ最近、何件も閉店しているのだ。
この街では仕事らしい仕事がない為、店を閉めた人達は、また一人、また一人とこの街からいなくなってしまっている。
商店街を抜けると、永遠に続くかと思う程に伸びる坂の前で、リアンは立ち止まった。
リアンは毎朝ここで、同級生の花屋の倅のドニーと待ち合わせをしている。
「おはよう!」
リアンが寒そうに手を暖めていると、背後から声を掛けられた。
声の主はドニーだった。
ドニーは緑色の長袖の裾で、鼻水を拭うと、「よーい、ドーン!」と言って、急な坂道を駆け出して行く。
リアンもドニーにつられて、駆け出した。
最近二人の間では、朝の坂道競走が流行っている。
いつも勝つのはドニーだったが、「今日こそは」という気持ちで、リアンは両手を思いっきり振って、無我夢中で走った。
「ハァハァ…」
リアンが疲れ切った足を震わせ、息を切らして坂道の途中で立ち止まろうとした時、ドニーが鼻水を拭いながらリアンの方へ振り返り叫んだ。
「あとちょっと!がんばれリアン!」
ドニーの声援を聞いて、リアンは力を振り絞った。
「ハァハァ…ハァハァハァ」
リアンはドニーと共に、永遠とも思えた坂の頂上に辿り着き、肩で息をする。
「やったー!リアン!一回も立ち止まらずに登り切ったね!」
ドニーははしゃぎながら、自分の事のように喜んだ。
リアンはゆっくりと後ろを振り返り、今まで一度も一足で登り切れなかった坂の頂上から見える街の風景を見渡した。
商店街の建物が、いつもより小さく見える。
「よし!今度は学校まで競走だ!」
ドニーがそう言うと、二人はまた駆け出して行った。
学校に着いたリアン達は、二人きりの教室で、先生が来るのを静かに待った。
去年の今頃、まだあと十人は居たクラスメートも、とうとう二人きりになってしまっている。
「リアン、学校終わったら…」
「しっ、先生がもう来る頃だよ」
リアンはドニーの言葉を遮った。
「…コツコツ」
静寂の中、足音が聞こえてきた。
その音は確実にリアン達に近付いてきている。
「…コツ…コツ」
足音はリアン達の居る教室のドアの前でピタリと止まった。
そしてドアが静かに開いた。
教室に入ってきたのは、担任のライアという女の先生だ。
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