23 疑心


(とにかくどうにかしてクロスに会わないと……)


 そう考えたユースは城での仕事が終わったその足で、城門へと足を向けていた。

 ディベールスの仕事をしているとどうしても寮と城の往復になってしまう。

 意識して時間を作り、街へ足を向けなければ街に出る機会がなかなかないのだ。

 つまり仕事に追われているとクロスを探す時間もない。


(なんの情報もない今、とにかく街を歩き回って情報を集めるしかないからな)


 今日は昼間の勤務だったので、夜遅くまで捜索ができそうだ。

 最近は夜番が続いていて、捜索が思うようにできなかった。

 昼間は人目が多いし、街を巡回している騎士団に遭遇する率も高い。

 できればあまり街をうろつく姿を見られたくなかった。

 接触しようとしてる対象が10年前に死んだはずの男であり、今回の騎士団襲撃事件の首謀者だからだ。


 だから城から出る際にも細心の注意を払っている。

 もちろん毎回城門を守る守衛たちには姿を見られているのだけれど、騎士団襲撃事件の犯人を捕縛するために巡回に出ていると伝えている。

 そんなユースに守衛たちも慣れたようで、最近ではこちらが何かを言う前に「お気を付けて」と門を開けてくれるほどだ。

 今日もユースの姿を見ると、守衛たちが「今日も巡回ですか」「夜は特に気を付けてください」と口々に声をかけ、門を開けてくれた。


「ありがとう。帰りは遅くなると思う。もしかしたら深夜か、朝方かもしれない」

「承知しました。スムーズに帰城できるよう、その旨、引き継ぎしておきますね」

「助かります」


 ユースが敬礼で見送る彼らに敬礼を返し、門を潜ろうとした、その時———。


「ユース」

「!」


 突然の声掛けに振り返れば、そこにはどこか固い表情のアーセルが立っていた。

 彼はこれから夜番のはずなので、シュナイザーのもとへ行く途中なのだろう。

 しっかりと制服に身を包み、腰には剣を下げていた。


「アーセル。どうかしたか?」


 内心の動揺を悟られないよう、ユースは努めていつも通りを装った。


「いや、たまたま姿を見かけたからな。街に行くのか?」


 そう声をかけながらアーセルが近づいてくる。

 適度な距離を空けて立ち止まったアーセルに、一方的に緊張感が高まる。

 本当の目的を悟られてはいけない。


「ああ」


 声は少し硬くなったかもしれない。

 だが、ほんのわずかだ。

 付き合いの長いアーセルでも気づかなかっただろう。


「最近空き時間に街を巡回してるって本当だったんだな。お前、よくやるよ。あの事件は騎士団本部が指導してやってんだし、俺達は俺達の仕事してりゃーいいんじゃねえの?」

「まあ、そうだろうけど……。未だになんの進展もないみたいだから、少しでも力になれればって思って」

「その気持ちはわかるけど、お前ひとりでどうにかなるもんでもないだろ。それにお前まだ復帰してすぐなんだし、あんまり無理してまた怪我するとかやめてくれよ」

「そんなヘマするか」

「でもお前、正式任務じゃねえから銃も持ってないんだろ?剣も銃もなしで、万が一の時どうやって対処するんだよ。正式要請が来るまでやめとけって」


 暗に何かあっては対処できないだろうからもう巡回はやめた方がいいと伝えてくるアーセルに、彼の優しさを感じ取り、ユースの胸はチクリと痛んだ。


(ごめん。それでも、行くしかないんだ。クロスに会えば、もしかしたら止められるかもしれないから)


 それに、小型のナイフは内ポケットに隠してある。

 万が一の時はこれで対応するつもりだ。

 もちろんこれでクロスに勝てるとは思っていない。

 おそらく小型ナイフ一本で立ち向かえば前と同様、もしくはほかの被害者と同じように瀕死の重傷を負わされるだろう。

 それでも、生き残る可能性は高い。


(本当は愛用の銃を持っていければ一番いいんだけど……)


 さすがにディベールスと言えどプライベートな時間に剣や銃を所持することはできない決まりなので仕方がない。


「心配するな。俺は大丈夫だ。体術だってそこらへんの騎士よりは強い」

「そうだな。お前はディベールスにふさわしい実力がある。なら今回の事件の犯人がどれだけ危険かもわかっているはずだ。それなのに毎回ひとりで出かけるなんて無謀にもほどがある、せめて俺と勤務予定が一緒の日に俺を誘っていけばいいだろう」

「……お前がそんなに仕事熱心とは知らなかったな」

「また誤魔化す。大体お前だって仕事熱心なほうじゃないだろ。なのに今回の件に関してはやけにこだわってるように見える」

「――っ」


(まずい、前回のこともあってか思ったより俺の行動を怪しんでるみたいだな)


 内心かなり動揺したが、辛うじて顔には出さなかった。

 バレないよう、意識してゆっくりと呼吸し、心拍を落ち着かせる。


「仲間があんな目にあって、黙ってるわけにはいかないだろ。もういいか?お前も仕事に遅れるぞ」

「……そうだな」

「じゃあ、俺は行くから。仕事頑張って」

「ああ」


 後ろ手に手を振って、今度こそユースは城を後にした。


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