15 現実
「!!」
弾丸が腹を貫く痛みで目が醒めた。
夢だったことに一瞬ほっとして、しかし今も続く痛みに、現実だったのだと知る。
(全部が夢だったらよかったのに)
そう思って、寮より少し硬いマットレスに全体重を預けた。
白い天井に、白い壁。ベットも目に見えるものすべてが白い。
そして一切余分なものはなく、ベットサイドに置かれた引き出し付きのサイドボードがあるだけだ。
ここは騎士団本部敷地内にある騎士団専用病院だ。
基本的には騎士団所属のものと、その家族しか入る事のできない警備の厳しい病院である。
ユースは騎士の称号を持っているので個室に入っているが、騎士でないものは4人部屋に入院することになる。
医師の話では一か月ほどは入院することになるので、個室でよかったと思う。
痛みで動けない身体ではほぼ部屋に引きこもっていることになるだろう。
その状況下で相部屋というのはきついものがあった。
(なんにせよ、今は仕事どころじゃないしちょうどよかったのかもな)
いつもなら現場に出たくてうずうずしているだろうが、クロスの事が気になって仕方がない。
クロスから投げられた言葉についても、考える時間が欲しかった。
(騎士団を辞めるなんて考えられない。でも……)
クロスが望むのならそうすべきなのではないかという思いもある。
このままここに居続ければクロスと戦うことになる。
今度は自身が銃口をクロスに向けなければいけない。
あの時はクロスの計画を止めたい一心だったが、改めてあのクロスと本気で戦わなければいけないという現実を想像したら怖くなった。
銃口を向けることは出来ると思う。
自身の正義はブレていない。
しかしクロスの実力を考えれば、確実に殺し合いになる。
急所を外して狙う余裕などないはずだ。
それに、今度こそクロスは本気で殺しにくるだろう。
本気対本気。その場合ユースの勝率は……。
そんな考えにたどり着いた時、ユースは「はぁ」と大きく息を吐いていた。
次いで現実を拒絶するように目を閉じる。
(俺、昔っからクロスに勝ったことないんだよな……)
過去、遊び半分に射撃や馬術、体術で勝負をしたことが何度かあったが、いつも大差で負けていた。
鍛錬を積んだ今はそれほど大差で負けることはないと思いたいが、先日の戦いを思い返すと自信がない。
懐に入ろうとしたところを読んでいたかのような足技であっけなくユースは吹き飛ばされた。
それにシュナイザーに銃を弾き飛ばされ、それを拾った瞬間撃ったあの反射神経。そして完璧にシュナイザーの銃のみを狙い、弾き飛ばした。
(あれはすごかったな)
体勢を崩しながら、しかも下から上を狙うのはかなりの技術を伴う。
クロスはかなり訓練を重ねているはずだ。
できれば戦うのは避けたい。
(でも、その為には騎士団を辞めるしか……)
騎士団を辞めるという事は仲間を見捨てるのと同じ。
騎士団を辞めなければ、たった一人の血縁者を失う。
(仲間か、血か。どちらを選んでも、大切な人を失う)
どちらも手放したくなどない。
どちらも失わずにいられる方法があればいいのに。
ユースはまた重いため息を吐いていた。
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