第4章 必要とするもの、されるもの

14 悪夢


 銃口がまっすぐこちらに向けられている。


(一体誰が……)


 銃の持ち主を確認するために視線を上げる。


「あ――」


 その先に見えた顔に絶望した。

 銃口をまっすぐこちらに向けていたのは、ずっと会いたかった従兄弟のクロスだったのだから。


 クロスは無表情のまま「どうしてだ」と問いかけた。


「どうして俺の言うことが聞けないんだ。ただ騎士団をやめるだけで良いと言うのに」

「それは、それだけは出来ないんだ!俺は騎士団の騎士として誇りを持ってやってきた。それにここだけが今の俺の居場所なんだ!だから!」

「お前の命があるのは誰のおかげだと思っている。あの時俺が父を撃たなければお前は死んでいた。それなのに俺の言うことが聞けないのか?」

「――っ、それは」


 ドクリと心臓が大きな音を立て、脈を速めていく。

 

 呼吸が、苦しい。


(やめてくれクロス。そんな目で俺を見ないでくれ!)


「幻滅したよ。お前とはここでさよならだ」

「!!」


(まずい!)


 逃げなければ。

 あの銃弾が届かない所まで。


 ユースは背を向け必死に走る。

 しかし全力で走っているはずなのに、どうしてか足が遅い。

 すべてがスローモーションのように感じられた。


「はぁ……はぁ……っ」


 息だけが荒くなっていく。

 全身が恐怖に包まれる。

 それでも走り続けなければ。


「俺はもうお前の知っている俺ではない。簡単に罪のない人を撃ち殺せる。目的のためならなんでもできる。そんな人間になったんだ」


 静かな声にユースは目の奥が熱くなるのを感じた。

 口数は少ないが、昔はユースの話を良く聞き、アドバイスをくれた優しい人だった。

 剣術も射撃の腕も父たちに並ぶほどで、強さもあった。


 ずっと、憧れていたのだ。

 クロスのようになりたいと。

 クロスのようになって、いつか立派な騎士になるのだと。


 それなのに……。

 クロスはいつから変わってしまったのだろう。

 あの事件の日に?

 それともずっと?

 自分に見せていた姿は偽りだった?


 堪えていた涙が、頬を伝う感覚がした。


「お前は純真すぎる」


 パァアン!


「――っ!!」


 灼熱が腹を貫いた。

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