11 再会は戸惑いと共に
「久しいな、ユース」
不意に、低く、心地よいとも感じられる声で男が名を呼んだ。
その声で頭の中の情報が一気に一つに纏まった。
だが導き出された名前は決して存在することのない名で、ユースの鼓動は激しく動き出す。
「あまりに時間が経ってしまったからな。俺の顔を忘れてしまったか?」
わずかに口角を引き上げて笑う男の言葉に、ユースは恐る恐る相手の名前を口にした。
「……まさか、クロス、なのか?」
震える声で名を呼べば、肯定するようにクロスが頷く。
「そんな…、まさか……。本当に…?」
まさか幽霊ではないのか。
そんな思いもよぎったが、目の前に立つクロスは確かに10年の歳を重ねた姿だ。
顔に幼さはなく、身長も見上げる程大きい。
わずかに目もとにあの頃の面影を残しているだけで、名前を呼ばれなければ気づかなかっただろう。
「大きくなったな、ユース」
「っ!」
目を細めて、懐かしむクロスの胸に思わずユースは飛び込んでいた。
大人になってたくましくなったクロスの腕がしっかりとその身体を支える。
かなり勢いよく飛びついたが、クロスはふらつくことはなかった。
「触れる……。やっぱり夢でも幽霊でもないんだな……!」
言葉ではとても表せない大きな喜びが胸に広がっていく。
初めて苦しみでも悲しみでもない感情で胸が締め付けられた。
「今までどこにいたんだよ……!俺がどんな気持ちだったかっ、わかって……!」
感情が高まって涙を流すユースの頭をクロスはそっと撫で続ける。
「寂しかったのか?」
「当たり前だろ……!突然独りになって、どうしていいのかもわからなくて……っ」
「そうか。だが、立派に騎士になったみたいだな」
「そうするしかなかったんだ……。爵位をついでも、俺は若かったし……。何より犯人を自分の手で捕まえたくて……」
クロスの背に回した手をぎゅっと握りしめる。
きっとクロスだって同じ気持ちだろう。
あの日自分たちを絶望へと突き落とした犯人をこの手で捕まえ、裁きを受けさせたい。
できるならこの手で……。
しかしその頭上で聞こえたのは予想もしない言葉だった。
「犯人を捕まえてどうするつもりだ?」
反射的に顔を上げて信じられないものでも見るように目を見開いた。
「どうするだって!?仇を取るに決まってるだろ……!みんなをあんな目に合わせたやつを許せるはずがない!」
「お前は相変わらずだな。どうしてそうも変わらずにいられるのか不思議でしかたがない。まっすぐで家族思いで、どこまでもいい子だ」
「クロス……?」
感情の読めない声が一瞬ぞっとするような冷たさを含んだ気がして戸惑う。
「あの日の記憶を失っているお前に真実を教えてやろう。あの日、何があったのかを」
「え……?記憶を失っているって、どういうことだ……?」
確かに曖昧な部分はあるけれど、記憶を失っているわけではない。
あの日響き渡った悲鳴も。床を染めた血も。屋敷を包んだ炎も。
全部、覚えている。
それをなぜ、そんな風に言うのか。
「そのままの意味だ。覚えていれば、そんな精神状態でいられるわけがない」
「なんで…」
眉を寄せて、小さく呟くユースにクロスは目を細める。
「あの日、あの殺戮をおこなったのは、俺の父親なんだよ」
「え――…?」
まるでその言葉一つ一つをユースに刻み込もうとするかのようにゆっくりと告げられた真実に、心臓が止まりかけた。
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