10 呼ぶ声

 王城から20分ほど歩いたところにライトフォード家の跡地はある。

 普通の民家なら三軒ほど余裕で建てられそうなほど広い敷地を囲むレンガの壁と門は当時のまま残されているが、一歩中に入れば本来あるはずの屋敷はない。代わりに一面に芝生が敷き詰められ、ほぼ中央に置かれた大きな墓石を囲むように木々が植えられている。

 住宅街にあることを忘れそうなほど自然にあふれた空間だ。

ここが悲劇の場所でなければ、時折聞こえる鳥の鳴き声にさぞ癒された事だろう。

 そんなことを考えながら墓石の前に立てば、そこにいくつかの花束が供えられていることに気付く。

 門は残されているが鍵をかけていないため、おそらく騎士団関係者か、近所の人が置いてくれたのだろう。

 自分のほかにも家族を忘れないでいてくれる人がいてくれることが嬉しい。

 その場にしゃがみ込んでユースも花を供えると、手を組んで数秒間祈りをささげた。

 

祈りを終えてゆっくりと息を吐き出すと墓石に刻まれた名前を見つめる。

 そこには両親をはじめとした血縁者の名前が刻まれていた。

 シュナイザーは子供の遺体がひとつ見つからなかったと言っていたが、ここにはしっかりと自分以外の3人分の名がきちんと刻まれている。

 

「犯人は絶対捕まえる。何年かかっても」


 例え証拠が何もなくても、どこかで犯人につながる糸は残されているはずだ。

 それをいつか必ず、見つけてみせる。

 誓いのように呟いて、ユースは静かに立ち上がった。


 その時背後で門を開ける音がして、誰だろうと条件反射で振り返る。

 そこにいた人物は見覚えのない、だがどこかで見かけたような気もする男だった。


 細身で長身。黒のワイシャツを第二ボタンまで開け、足の形がはっきりとわかる黒の革パンツをはいている。そこに同色のストールを合わせていた。

 見事に全身を黒で包んだ男は前髪ごと後ろに流した髪まで漆黒で、肌だけが対照的に白い。


 ゆっくりと優雅な足取りでユースの前に立った男は切れ長の目でこちらを見下ろす。

 間近で見るその顔はやはりどこかで見たことがあるような気がしたが、その人物の名を思い出すには至らなかった。


「久しいな、ユース」

「――――」

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