第2章 過去からの解放
6 懐かしい夢
右には庭へと続く大きな窓がある開放的な空間。
見上げれば二階まで吹き抜けになっている。
50畳はあろうかというそこは、壁が白く塗られていて広い部屋をさらに広く見せている。
ここはライトフォード家のリビングだ。
そう気付いて、ユースはやっと夢を見ているんだと自覚した。
リビングには数十人の大人や子供がいて、大人たちは暗い革張りのソファーで談笑していた。子供たちは部屋を駆け回ったりして好き勝手に過ごしている。
彼らはみんな近しい親族たちだ。
ライトフォード家は代々騎士を輩出してきた名家で、父も叔父も祖父もみんな名の知れた騎士であった。
そしてその歴史故に、生まれる男児は皆、騎士となることを運命づけられるのだ。
ライトフォード家の直系として生まれたユースも当然のように幼いころから騎士となるべく英才教育を受けてきたが、それを別段嫌だと思うことはなかった。
それが父とのコミュニケーションの一つでもあったし、力をつければ父も母も喜んでくれた。
その顔を見るのが好きだったからだ。
懐かしい光景の中に親戚と談笑する両親の姿を見つけて、少し泣きそうになった。
唐突に場面が切り替わり、ユースはベランダから空を見上げていた。
手すりが顔に近い。
おそらく12、3歳位の記憶だからなのだろう。
「…お前も騎士養成学校に入るんだって?」
隣から聞こえた静かな声が鼓膜を揺すった。
まだ幼さが残るその声は、しかしわずかに低く大人らしさも感じられる。
視点が空から動かなかったためユースは相手の顔を見ることはかなわなかった。
だがユースにはわかる。
その声からしておそらくユースの三つ上の従兄弟、クロス・レジェストだろう。
クロスとは歳が近いこともあり、幼いころから兄弟のように育った。
彼もまた騎士となるべく騎士養成学校に通っている。
いや、これは10年も前の夢なのだから、正確には通っていた、だ。
「うん。試験も一発合格だったよ」
合格発表の興奮が忘れられないのか、そう返すユースの声は高い。
騎士養成学校は一般の士官学校より定員が少ないし、試験内容も難しい。
十三歳から入学が可能だが、その歳で受けて合格できるものは一握りだと言われている。
その年の試験も十三歳で合格となったのはユース一人だった。
これが興奮せずにいられるだろうか。
隣の男も褒めてくれるであろうと期待を込めての言葉だったが、しかし期待した言葉は返ってこなかった。
「お前には嬉しいことなんだな。……初めから決められた道を行くのは、小さな枠に無理やり自分をはめようとするようなものだ。俺にはそれが窮屈で仕方がない」
「?」
言葉の意味が分からず隣を見上げれば、高い位置にあるクロスの顔はまっすぐに庭に広がる闇を見つめていた。
その目は闇を睨みつけているような気がして少し怖い。
慌てて視線を外したユースの頭をクロスが優しく撫でる。
「だがお前が幸せならそれでいい。俺とお前は違うんだから。お前の目指す場所へお前の望む通りに進め」
「……うん」
あの頃は何かを思うことはなかったが、今思えばあの時クロスは何かを悩んでいたんだと思う。
今となっては確かめる術はないが。
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