5 動き出した闇
空高く上った月が青白い光を放ち、薄暗い廊下に降り注いでいる。
その廊下を一人の男が上機嫌に鼻歌を歌いながら進んでいた。
赤い髪に白い肌、それに黒縁眼鏡を合わせている。
名をライ・ローレンスという。
「随分ご機嫌だな、ライ」
「ええ、ずっと欲しかった本も手に入りましたし。あなたが必要だと言っていた駒も揃えておきましたよ」
唐突に背後からかけられた声にも動じることなく自然に足を止めると、ローレンスは万弁の笑みを張り付けて振り返った。
その先にいるであろう男は上半身が月の明りの届かない位置に立っていて顔を窺うことはできない。しかし聞きなれた声であったことから特に警戒もしなかった。
ふふふと楽しげな声を漏らすローレンスとは対照に返ってくる声は静かで、まるで夜の静寂のように心地いい。
「それが例えお前の用事のついでだとしても礼は言っておこうか。これでようやく楽しいパーティーを始められるのだから」
「ついでなんて。僕もパーティーは楽しみですからね。そのための協力は惜しみませんよ」
「そうか。では駒たちに伝えてくれたまえ。楽しいパーティーの決行日をね」
「ふふふ、りょーかい」
そう返して再びローレンスは歩き出す。
その途中で言い忘れていたことを男に伝えるために振り返る。
「ああ、そうだ。今日本を貰いに行ったらね、銀色の騎士に会ったよ。純粋で穢れを知らない目をしていた。あれはつい壊したくなるね」
一人半分独り言のようなその言葉に予想通り反応はない。
それを気にした風もなくふふふと笑い、また鼻歌を歌いだすローレンス。
対峙している男はそれに何かを言うこともなくローレンスとは反対方向へと歩き出した。
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