と学会の興亡・その一

 大切なことをこれまで書いていなかった事を思い出した。と学会のことである。

 正直にぶちまけてしまうが、僕は会長になんかなりたくなかった。最初に会を発足すとの話し合いの日に、「じゃあ、山本さん会長ね」と強引に押しつけられただけである。゛

 最初のころは抜群に面白かった。向かうところ敵なしという感じで、いくらでも楽しい文章を書きまくった。

 それに影がさしたのは唐沢俊一氏の無断盗用事件である。唐沢氏が書いた文章が他の人の文章とまったく同じであることが発覚したのだ。

 最初のうち、僕は唐沢氏に好意的であった。唐沢氏はたくさんの文章を書きまくっている人だ。たぶん原稿を書いているうち、自分が書いた原稿を忘れてしまい、他の人が書いた原稿とごっちゃになってしまったのだろう。

 だけど、こんな事件をと学会の会長として見過ごすわけにいかない。僕は会長としての権限を初めて行使して、唐沢氏のと学会員としての活動を一年間休止することを宣言した。自分ではこれは妥当だと思っていた。


 ところが僕がネット上の『と学会HP』に唐沢氏の処分について書いたら、驚くべき事に、その全員が処分に対して反対だった。意見が分かれて議論になることは予想していたが、まさか全員が反対とは。唐沢氏は悪いことをやった。だったら何らかの処分があるのは当たり前ではないか。

 しかし僕の処分には、と学会のメンバー全員が「ノー」と答えた。僕にしてみれば、裏切られたような気分だった。

 そのころ、僕は悩んで、真剣にと学会を辞めることを考えた。その決意を変えさせたのは、皆神龍太郎さんだった。

「山本さんはと学会のこと天皇なんだ。会長という座に座っていても、実質的な権力は何も持ってない。だからあなたは上にいるだけで充分。あなたが上にいてくれるおかげで、と学会委員たちはは安心して遊ぶことができるんだから」

 僕は「と学会の天皇」という言い方に反発したが、皆神さんの意見はもっとだと思っていた。僕は「会長」という呼び名を最高権力者と誤解していた。実はそんなものはなかったのだ。僕は天皇のようにお飾りのようなものだったのだ。

 そして僕はと学会の会長に戻った。そして唐沢氏も何事もなかったかのように、と学会の幹部の座に返り咲いた。

 

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