と学会の興亡・その二

 さて、そんな話ではなく、僕がと学会への不信を決定づけられた一件がある。名付けて「と学会の陰謀」である。

 当時、と学会に対して敵対的な行動をしている人物「かりにX氏と呼ぶ)がいた。敵対的と言っても犯罪行為ではない。あくまで表現の自由、正統的な人権の行使である。

 と学会内部でX氏の行動に腹を立てている人間がいた。彼らは結託し、X氏に対して反撃を計画した。

 と学会には一般向けのホームページの他にも、ごく少数の人間しかアクセスできないクローズドのページがある。僕たちはそのクローズドのページで、よく外部の人に知られては困る情報を話し合っていた。

 その時の話題もX氏についてだった。目の上の瘤であるX氏の口を封じたい。そのためにはX氏に対して訴訟を起こしたい。ところがX氏の住所が分からない。何としてでもX氏の現在の住所を知らなくてはならない……。

 そこで名案(と信じた人間は思いこんでいる)が浮かんだ。何とか私立探偵に頼んで、コミケ会長場から帰宅する前のX氏を尾行し、彼の住所を探り当てようというのだ。

 最初のうち、僕はてっきり冗談だと思いこんでいた。ところが複数の(たぶん十人以上のと学会の会員が賛同していたと思う)計画者の間でどんどん話が進み、気がつくと実行寸前になっていた。現実に私立探偵を雇うところまで話が進んでいたのだ。

 僕は血の凍るような恐怖を味わった。

 軽い趣味の会だったはずのと学会が、いつの間にか陰謀組織にまで成長していたのだ。

 僕は慌てて計画にストップをかけた。「この戦いの勝利条件はいったい何なのですか」と僕は全員に問うた。仮にX氏を名誉毀損などで訴えられたとしても、と学会もこんなことで私立探偵を持ち出すなんて不名誉なことではないか。

 結局、僕が反対したので、X氏に対する陰謀は不発に終わったのだが。


 それからずいぶんと(たぶん一年後ぐらいだと思うが)X氏からメールが届いた。

「ずいぶん前にと学会のメンバーの中に、私立探偵を雇って私の住所を探らせるという案があったて聞いたのですが事実でしょうか」

 バレてる(笑)。

 X氏どこでその計画を知ったのかは不明だが、僕としてはあの日に計画をやめたのは正しかったと今でも思っている。

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