他にもを本を読んでる人が


「分かるか? 僕らみたいに月に何冊もの本を読む人間は、それだけですでに稀少

種、マイノリティなんだよ」


 これは僕が『BISビブリオバトル部 翼を持つ少女』の中で、ビブリオバトル部の部長に言わせたことだ。もちろん、僕のいつも考えていることを言わせているだけなだが。

 しかし、この病気を患って以来、そのことをいっそう実感するようになった。

 たとえば週に三回家に来るリハビリの先生たちだ。それぞれ自分の専門分野に精通していて、手足のストレッチやら、近所の散歩やら、頭の体操やらに付き合ってくれる。

 それとは別に近所の施設に週一で通っている。職員はみんな親切で、みんなでリズムに合わせて体操をしたり、機械の助けを借りて運動をしたりする。ああ、そうだ。レッドコードという面白い道具も使う。その名の通り赤いワイヤーである。手足にぴんと張ったワイヤーで体重を支え、足をぶら下げたりするのだ。知らない人が見たら、拷問かと思うかもしれない(笑)。でも、意外に気持ちいいんだ。

 本当に職員はとても親切だ。文句はまったくない。

 でも、ひとつだけ不満な点がある。

 職員は誰も小説を読まないのだ。職員だけじゃない。二十人ほどいる入所者の誰もだ。たまに入所者同士で会話もするが、せいぜい、大相撲の取組みとかプロ野球のことばかり。一方、僕はスポーツなんかにまったく興味がない。

 当然、僕の名前も知らない。いや、僕だけじゃない。現代の人気作家なんて一人も

知らない。

 だから僕はこの施設の中ですごい孤独を味わっている。

『ビブリオバトル部』の中で、ヒロインの空が、自分の父親がSFに興味がないのに嘆くシーンがある。いや、活字そのものに興味がない。買って読むのは漢字ナンクロ

だけ。僕はこういう設定こそリアルだと思っている。世間の人の大半はSFになんか興味を示さない、それどころかフィクションそのものを読まないのだ。

 どうしてみんな本を読まないで行きていけるのだろう。

 僕にはそれが理解できない。


 ところでこの施設の中でたった一人、本を読んでる人がいたのをこの前、発見した。若いサポーターの人で、SFは知らないけれども、現代の流行作家の何人かを知っているようだ。

 僕はこの青年に望みをかけることにした。試しに『詩羽のいる街』を読ませてみようと思う。

 誰でもいい。他の作家のファンでもいいから、小説の話がしたいんだ。

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