『スローな武士にしてくれ』

 この前、NHKで画期的な番組を見た。『スローな武士にしてくれ』。ハイビジョンや超高速度撮影やドローンを使った撮影など、現時点でのNHKの技術力のすべてをつぎ込んだような番組だ。

 これがすごかった。「ここまでNHKの内幕を大胆にさらしちゃっていいの?」と心配になるぐらい。ドローン撮影もすごかったが、僕がぶっ飛んだのは、カメラマンが時代劇俳優に密着して、二十何秒もの速いスピード(細かい数字は忘れた)で一人の武士が何十人もの武士を相手に大立ち回りを演じるというカットである。しかもワンカットで。


 いやー、これはすごい。堪能した。これまでも戦隊シリーズなんかのアクション

で、この手の映像には免疫ができていると思っていたのだが。特に『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』で、しょっちゅうカメラがジャンプしてたり、明らかに足の位置を映してるカメラを飛び越えてたりするのには、毎回、テレビの前で「どう

やって撮ったこれ?」と首をかしげてた。

 しかし、この『スローな武士にしてくれ』の技術はさらにすごい。特に驚くのは、ワンカットで数十人の俳優が立ち回りを見せるシーンである。誰か一人でもちょっとでもとちったら、最初から取り直しになる。何回リテイクしたんだこれ。

 しかも、ラストシーンは名作『蒲田行進曲』のオマージュである池田屋の階段落ちのシーン! すげえ。本当に落ちてるよ、スタントマンの人。


 しかもこの技術が一回だけの使い切りじゃないのだ。これからも合戦シーンとか乱戦シーンとかで何度も使われるだろう。うわあ、これからはNHKの時代劇はうかつに見てられないぞ。どんな映像のトリックが使われてる分からないのに。


 考えて見りゃあ、僕らは黒澤明の時代より何十年も未来に生きているんだ。黒澤の時代には不可能だったことも簡単にできる。もう『椿三十郎』のラストの決闘シーンもつくれちゃうんだなあ。


 それどころか、何年か先には本物の三船敏郎や松田優作を今になって競演させることも可能になっているかもしれんなあ、CGで。

 そうか、自分の小説でこういう未来像を描いたことがあった。『地球移動作戦』の初頭、もう仮想現実が当たり前になってて、CGの三船敏郎とハンフリー・ボガートが当たり前のように共演している世界。

 そう言えば、やっぱりNHKの番組で、美空ひばりをCGで歳月するというのをやってたな。「故人に対する冒涜」という声もあるけど、この流れはたぶん止められないよ。僕も岸田森の出てくる新作は見たいと思うもの。

 いよいよ『プロジェクトぴあの』が現実になってきたのかもしれない。

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