「ジェライラの鎧」
この前から、昔の自分の小説を読み返してみるということをやっている。今日の素材は「ジェライラの鎧」(富士見ファンタジア文庫『レプラコーンの涙』に収録)。僕が初めて書いた〈ソード・ワールド小説〉である。初版は平成二年の一月。
あ、『ソード・ワールド』というのはですね、株式会社グループSNEが展開しているテーブルトークRPGである(説明するとややこしいので、知りたければウィキでも調べて)。それのゲームだけじゃなく、小説版も展開していた。前に紹介した『サーラの冒険』も〈ソード・ワールド小説〉なんである。
主人公は騎士の娘ジェライラ、彼女が小国リファールの騎士団に入隊して、しだいに成長してゆく様と、鎧職人の青年ルバートとの恋を描いている。
つくづく思うけど、この頃から僕は普通の作家が書きたがらない題材を選んでたんだなぁ。冒険者が悪漢やモンスターと戦う話なら珍しくもないけど、何で鎧職人の男と駆け出しの女騎士の恋愛なんてものを書きたがるかな(笑)。
久しぶりに読み返したけど、冒険の舞台であるアレクラスト大陸の文化や政治形態や生物相の解説に、かなりページを割いているのが分かる。何しろ大半の読者が知らない架空の世界の話だ。基本的なことを一から説明しなくちゃいけなかったのだ。
ひるがえって、現代のラノベ(こんな言葉もまだなくて、当時は「ヤングアダルト小説」とか言ってた)はどうだろう。説明しなくてはならないことが少なくなり、ラノベ作家はずいぶん労力が節約できるようになって、楽になってるんじゃないかと思う。
その反面、今は書きたくても自由に書けないことも多いんじゃないかという気がする。
たとえば鎧作りのシーン。レザー・アーマーやチェイン・メイルの作り方なんて、誰かの小説はもちろん、どんな参考文献にも載ってない。
当然のことで、あれは全部、僕が考えた嘘だから(笑)。チェイン・メイルの鎖を作るのに陶器の棒を作って焼き入れをするんだけど、チェインをかまどの中で熱すると、温度が上がってほどよく熱くなったところで、膨張してすぽっと抜け落ちる……なんてのはデタラメだからね。信じちゃいけないよ。
当然、プレート・アーマーを作るために、ルバートがジェライラを裸にして型どりする場面も、僕の創作だ。実際の鎧は、どうやって作ってるんだろうな。謎だ。まあ、女性用の鎧というもの自体、現実世界ではあまり見かけないものだからなあ。
あと、モンスターの描写ね。特に幻獣スキュラ。コボルドやゴブリンじゃ芸がないかと思ってスキュラを出したんだけど、いい戦いになったと思う。
考えてみると、その頃の僕らは、まだ未踏の大地に一歩ずつ新しい道を作っていたんだ。
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