「びようこう」問題
最近話題の「徴用工」問題。
驚くべきことに「徴用工」(ちょうようこう)を誤って「微用工」(びようこう)と書いている人がびっくりするほど多いという。「ちょうよう」はどう見ても「びよう」にはならない。つまり、そう書いている人間はみんな本気で「びようこう」だと信じていることになる。
それは関連して思い出されるのは、昭和天皇の「独白録」が話題になったときに「独自録」(どくじろく)と書く人が多かったということである。それも一人や二人ではなく、何十人もの人が書いていた!
ちなみに「びようこう」や「どくじろく」なんて言葉は辞書に載ってない。
どうも僕たちは、この世界の常識を根本的に問い直すはめになっているようだ。僕はツイッターで何かを発言する人間は、なれない言葉を使う前に、まず辞書で調べるもだと思っていた。そうではないらしい。言葉を調べずにツイッターを使う人間はかなりいるようなのだ。
こういう話を持ち出すとすぐに、「ネトウヨが」とバカにする人間が多い。だが、これは右翼や左翼に無関係な問題、すべての人間に共通する問題ではないかと思う。
歴史問題にかぎったことではない。僕が扱ってきたニセ科学の話題などもそうだ。
僕はかつて『ニセ科学を10倍楽しむ本』(ちくま書房)という本を書いた。中学生でも分かるように単純な内容になるように、心がけたつもりである。だが今は反省している。
読者の多くは「中学生でも分かる」ことが難しいのではないか。
たとえば「水は字が読める」という話(水伝)にしても、一時は多くの人間が信じていた。今は水伝のブームは去ったものの、今度は新たなブームが来ている。生まれたばかり赤ん坊が知性を持ち、母親の体内にいたころのこと、さらには生まれる前のことを記憶しているというのだ。(「胎内記憶」で検索してほしい)。
もちろん科学的にはありえないし、何の根拠もない話なのだが、どういうわけか「良い話」として広まっているのだ。不気味なのは体内記憶の信者には、「子供はお母さんを選んで生まれてくる」という説が信じられていることだ。もちろんそんなことはありえない。母親に虐待される子供、時には殺される子供も大勢いるのに、胎内記憶信者にはそんな話は耳に入らないようだ。
あと放射線の問題。
下手なことを書いたら風評被害になるかもしれない。僕は可能な限り科学的であろうとした。『大震災 予言・陰謀論』や『13歳からのリスク学』という本で正確な記述を心がけたつもりである。
だが大震災から九年も経つというのに、いまだに「ベクレル」という言葉すら知らず、風評被害を拡大する人がいる。
特に「トリチウム」という言葉をとりわけ危険な放射性物質であるかのように使う奴には腹が立つ。なんて何でマスコミも「三重水素」って言わないのか! もしかして「水素」って言葉を使ったら、たいして危険じゃないってバレるから?
『BISビブリオバトル部』の菊地明日香はこういう。「そんなの科学的に間違ってる。許せない」
これは僕の信念である。科学的におかしなことを主張する奴には腹が立つ。右でも左でも。
あっ、もちろん「びようこう」「どくじろく」なんていう奴もね。
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