京アニ放火事件 あなたの信念は仮想現実ではないのか
恐ろしい悲劇が起きた。京都アニメーション放火事件である。
僕は京アニの作品群が大好きだった。『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』『響け!ユーフォニアム』『聲の形』などなど、代表作を挙げだしたらきりがない。それらの作品に関わった人々の中の何人かが命を失った。それはどうしようもなく悲しいことだ思うし、“哀悼の念”などという平凡な言葉では表現できないものだ。
僕の作品では『詩羽のいる街』の中で『ハルヒ』や『らき☆すた』にオマージュを捧げている。まったく無関係というわけでもないのだ。
犯人の動機はまだ不明である。ただ「作品を盗作された」という本人の主張に関しては、間違いであることが判明している。そもそも犯人の作品が本当にあったとして、それが「盗作だ」と主張するためには第三者による判断が必要だ。単に似ているだけの作品と言うこともあるのだから。
「盗作された」と主張すら、まずその原稿を誰にも見えるように広く公表すべきだったのではないか。テロに走るより前に。何となくよくある話を思いついてしまい、「盗作された」と勘違いしたのではないだろうか。
そんな勘違いが大勢の人間を殺傷する動機になるとは。
僕の小説『アイの物語』でも書いたことだが、人間というのはそもそも不合理な生き物なのだ。物語の終盤近くで、アンドロイドのアイビスはこう言う。
「ヒトは知らず知らずのうちに、たくさんのフィクションの中で生きているわ。善行を積めば天国に行ける。超古代文明は実在した。この戦争は正義だ。この浄水器で作った水を飲めば健康になる。彼女は僕と結ばれる運命だ。このグッズを身につけていれば幸運が訪れる。あの政治家はこの国を良くしてくれる。進化論はでたらめだ。私には優れた才能がある。昔からのしきたりに従わないと悪いことが起きる。あの民族を根絶やしにすれば世界は良くなる……詩音が言ったように、ヒトは間違ったことを信じ続ける。生まれてから死ぬまで、自分たちの脳内にしかない仮想現実に住んでいる。それが事実ではないと知らされると、激しく動揺し、認めまいとする」
『アイの物語』はフィクションである。しかし、真実が含まれているはずだと僕は信じる。
あなたはどうだろう?
アイビスが言ったことのうちいくつかを信じているのではないか?
こうしたテロ行為については、過去に何度も例がある。1995年のオウム事件や、2001年アメリカの同時多発テロ。共通しているのは被害者に何の落ち度もなく、殺されなくてはならない必然性など何もなかったということだ。
犯人は実行する前に考えるべきだったはずなのだ。本人にとってはさぞかし大きな価値のある行為だったのだろう。だが、その思いこみはたして、大勢の人の命を代償にすべき値打ちがあったことなのかということを。単なる仮想現実にすぎないのではないかということを。
あなたも考えてほしい。脳内の仮想現実を「現実」と思いこむ前に。
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