はるかぜちゃんと『アンネの日記』

 僕がツイッターでよくごひいきにしているのは春名風花(はるかぜ)ちゃんである。

もう大きいんだから「ちゃん」と呼ぶのはおかしいんだけど、「はるかぜちゃん」という呼び名がファンの間でも定着しているので、こう呼ばせてもらう。

 彼女のことを初めて知ったのは、伝説となった「都条例ぷんすか」だった。

 2010年、東京都が都条例を改正して18歳未満の(仮想上の)キャラクターのセクシャルな表現を禁止しようとした、いわゆる「非実在青少年」問題。僕も反対集会に参加したり、反対本に寄稿したり、積極的に運動に参加した。

 そんなとき、「都条例ぷんすか」をひっさげ、彗星のようにさっそうと現れたのがはるかぜちゃんだった。


「ぼくたちはいいまんがも、悪いまんがも、ちゃんと自分でえらべます」


子供を守るという大義名分のもと、「悪いマンガ」を子供の目から遠ざけようとする大人に、堂々と立ち向かった少女。それが9歳の子役、はるかぜちゃんだ。(ツイッターは以前、13歳未満の使用には制限を設けていたが、今は撤廃している)

 僕ら規制反対派は拍手喝采したけど、当時、規制に賛成する大人たちからは批判が浴びせられた。特に強かった声は「中の人」説。小学生がこんな文章を書けるはずがない。きっと大人が書いているに違いない……というのだ。

 しかし、僕は不自然だとは思わなかった。ラブクラフトが小学校の頃から小説を書いていたのは有名な話だし、日本でも小さい頃から文章を書いていた作家はいくらでもいる。

 僕もそうした一人である。書き始めたのは小学校三~四年の頃から。その頃から怪獣の出てくる話を書いていた(笑)。五年生で「アフリカの爆弾」を読んで筒井康隆にはまった。

 だから9歳の女の子が大人にアピールする文を書いても「おかしい」とは思わなかった。「頭のいい子だなあ」とは思ったけど。

 あと、女の子なのに自分のことを「ぼく」と呼ぶのもかっこよかった。当時、『地球最強姉妹キャンディ』という児童向けの小説を書いていて、妹の夕姫の一人称を「ボク」にしてた頃だったから。

 しかし、はるかぜちゃんへの攻撃は収まらなかった。「中の人」説を信じ込んだ者が多かったらしい。一般人の多くは、創作などやったことがないし、ラブクラフトの名すら知らないだろう。


 それで思い出すのは、『アンネの日記』捏造説である。

『アンネの日記』はアンネ・フランクが書いたものではない、という説は昔から根強い。ずっと前、オランダ国立戦時資料研究所の鑑定によって否定されてるのだが、日本でも未だに信じている者がいる。数年前、そのトンデモ説に踊らされた奴が、大量の本を破るという事件があった。(この事件については『翼を持つ少女』で題材にした)

 捏造説が多くの人間にアピールした理由は、日記を読んだ多くの者が、「13歳の女の子がこんなものを書けるはずがない」と思ってしまったせいらしい。いや、書けるんですけど?

 人間が同じ人間の秘めたポテンシャルを信じなくてどうするんだ。


 ちなみに、最近のはるかぜちゃんのブログを見ると、どうも「中の人」説を信じている人間が未だにいるらしい。はるかぜちゃんが生まれてなかった頃の古いマンガのことを知ってるのはおかしい、とか……。

 いや、彼女のツイッターを読んでいれば、若い頃から母や祖母に鍛えられて、小さい頃から『カムイ外伝』や『パタリロ』なんかを読んでたことが分かるんだけど。

 だいたい、彼女はもう18歳だぞ? いつまで古い陰謀論にしがみついてるんだ?

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