『シャザム!』に惚れ込んだ女性の話

 先日、映画を観に行った。『シャザム!』である。

 もちろん一人で映画館に行くなんてまだ無理。鋼鉄サンボくん他一名に同行をお願いした。持つべき者は友人、それも映画好きな友人だ!

 二人のおかげで、地下鉄の改札はもちろん、エスカレーターも無事にクリヤーできた。ただ上りはいいけど、下りはエレベーターを探さなきゃいけなかったけど。(情けないけど、下りのエスカレーターは吸い込まれるような気がして、まだ無理なのだ)

 だから苦労はしたけど、その甲斐はあった。サンボくんたちには深く感謝するしかない。


 さて、『シャザム!』の話である。

 原作の『シャザム!:魔法の守護者』(小学館)は何年も前に読んでいた。日本ではなじみの薄いヒーローだけど、昔はキャプテン・マーベルと名乗り、スーパーマンと同じぐらい歴史のあるキャラクターだということを知った。(今は同名のヒーローがいるけど)元は一九四〇年代、スーパーマンの亜流として世に出た。

そのユニークさは群を抜いていた。とりわけ少年が魔法の力で変身するというのに感心した。スーパーマンの亜流といっても、二番煎じに終わっていないのだ。当時、スーパーマンやバットマンの亜流キャラがどんだけ多かったか! その中で『キャプテン・マーベル』のオリジナリティは異彩を放っていた。

 そのキャラ誕生の初期段階にコミットしたのが、イアンド・バインダーというSF作家だということも知ったもこの時だ。なんでもこの時代、活字SFが売れなくなっていて、エドモンド・ハミルトンやアルフレッド・ベスターなどもアメコミのライターをやっていたらしい。

 つまりキャプテン・マーベルというキャラは、SF作家の発想力に支えられていたわけである。

 そして、四〇年代のその発想は、現代の映画版『シャザム!』にも受け継がれている。たとえば登場するキャラクターの中でメアリーとフレディは、四〇年代の初期の連載から登場する。(ユージーン、ペドロ、ダーラは二一世紀になって誕生した新キャラ)

 それだけじゃない。ラストに登場するイモムシ、ミスター・マインドは、『キャプテン・マーベル』の初期から登場する宿敵なのだ。僕はそれを知っていたから嬉しくなってしまった。日本で言うなら『ウルトラマン』におけるバルタン星人? いや、こっちの方がはるかに古いぞ!

 前に、懐かしのヒーローをよみがえらせるのに無理して新しい要素を加える必要はないという話をしたけど、これがまさにそれ。『シャザム!』は一九四〇年代の発想でも現代に通用するということを証明してみせた。


 さて、僕が『シャザム!』について詳しくなったのは、内藤真代さんのおかげである。

 内藤さんとは前にコミケで何度かお会いしたことがある。魅力的な若い女性で、妻と結婚してなかったら惚れていたかもしれん(笑)。『シャザム!』の原著に惚れこんで、昔の『キャプテン・マーベル』のイラストを熱心に探し出したり、ファンアートを描きまくったりして(また絵が上手いんだこの人)、小学館に熱く売りこんだ。そして、念願かなって『シャザム!』の翻訳をやらせてもらった。もちろん、今回の映画のパンフにも名前が出てる。

 今や日本一の『シャザム!』評論家だ。

 シンデレラ・ストーリー? いや違う。どんなジャンルでもそうだが、作品に惚れたファンが、単に「○○が好きだ」で終わるんじゃなく、その好きなものに精通してたくて徹底的に研究し、ついには深い知識を身に着ける。そしてその作品の魅力を多くの人に布教し、ファンを増やしてゆく……。


 そうした地道なファン活動によって、僕らは不毛の大地に種をまき、花を咲かせ

てゆくのだ。

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