僕がichinoseyayoiに殺意を抱いたわけ


 前前回、僕が安田純平氏の話題を出し、『BISビブリオバトル部 幽霊なんて怖くない』のプロットを説明したのには、ある大きな理由がある。

 ichinoseyayoiという人物ついてどうしても書きたかったからだ。


 こいつはストーカーであり、人間としての良心を何ら持ち合わせていない人物である。

 巧妙でなおかつ卑劣なのは、僕に対するストレートな批判や非難ではなく、僕が本に書いたり日記に書いた文章に巧妙に嘘を混ぜ、僕に対する攻撃に用いていることだ。しかもこいつは僕の小説をやたらに読んでおり(『サイバーナイト』や『妖魔夜行』などの初期作品まで読んでいた)、一見すると「山本弘のファンなのでは」と思えてしまう。

 こんな一件があった。

 2017年の10月21日、僕は四條畷市の市役所で行なわれたビブリオバトルに参加したい。ビブリオバトルに出場した参加者の一人の少年がいた。彼が出した本はコナン・ドイルの『失われた世界』。少年が恐竜についてふれなかったので僕は疑問をいだいた。そこで「なぜ恐竜について触れなかったのですか」と質問してみた。

 少年の返答は「それ以下の部分が面白かったから」というもの。僕はそういう子供もいるんだねえ、と軽く驚いた。でも少年を批判するようなことは何も言わなかった。


 ところが Ichinoseyayoiはその日記をパクった! しかもそれを自分の中学時代の体験に改変し、読書感想文が60歳の大御所(つまり僕)に非難されたのだと書いた。そのせいで読書感想文が嫌いになったのだという。


読書感想文が嫌いになった出来事を小説風に書いた

https://togetter.com/li/1166911


 ありえない!

 僕が60歳というのは最近だよ。それに彼の中学時代なら、僕は30歳代ぐらいのはず。1980年代か。その頃にプロ作家を読書感想文の審査に雇う中学なんてあるのか。

 僕はそれは剽窃だと非難したが、 Ichinoseyayoiは平気である。自分が悪いことをしたという自覚もなく、反省もしていなかった。

 当時すでに僕は彼の動向に気がついていたし、監視していた。それはichinoseyayoiも知っていたはずである。こんなことを書いたら、即座に僕に見つかって、剽窃だと否定されるのは分かっていたはずだ。なのにひょうひょうと、嘘をついたのだ。


 彼はまた、よくビブリオバトルのことを書いた。あたかも自分にその経験があるかのように。 

 しかし、実際には何の経験もなかったと思われる。もしあったら、その経験を書いたはずである。どんな本が紹介されたかとか、自分はそれに聞いてどう思ったかとか。

 彼はそんなことは何も言わない。書いている内容は、明らかに僕が『BISビブリオバトル部』に書いたことばかり。しかも、明らかに作中の出来事(つまりフィクション)を事実であるかのようにかく。おまけに、登場人物が長々とディスカッションを行なうという、僕が書いてもいない光景を描き、ビブリオバトルの公式ルールすら読んでいないのではないかと思える。

 そしてビブリオバトルについて「こんなことか行なわれている」と嘘八百を書き並べ、真面目な参加者を愚弄し、嘲笑する。


 彼がやらかした最大の事件は「カクヨム盗作事件」である。

 カクヨムがまだスタートした直後だったと思うが、何と彼は『BISビブリオバトル部』のストーリーを大幅に盗作して、アップしたのである。

 さらに盗作したのなら、まだしもその内容は恐ろしいものだった。

 なんと山本美香さん謀殺説を主張したのである!

 この謀殺説のアホらしさについては、前に『幽霊なんて怖くない』の中でも書いた。

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 また手が挙がりました。今度は若い男性です。大学生でしょうか。

「山本さんの死には疑惑がありますよね」その人は武人くんをにらみつけ、挑戦するような口調で質問をぶつけてきました。「政府軍の兵士から撃たれたことになってますけど、検死の結果では、背後から首を撃たれてる。同行していた反政府軍の兵士によって謀殺されたんじゃないかと。その点についてはどうお考えですか?」

 あ。

 まずいです。この前の蟹江もそうですけど、その手の発言は武人くんにとっては地雷ですよ。ほら、眼を閉じて、何かに耐えているような表情をしています。あれは明らかに怒りを抑えてるんですよ。

「……えー」

 やがて彼は口を開きました。

「その陰謀説は僕も当時、目にしましたが、四つの大きな欠点があります」早口でまくしたてます。「第一に、そんな説を唱えているのは、怪しげな陰謀論者のサイトです。信頼できる専門家の主張ではありません。第二に、山本さんが首だけでなく、頭や腰、太腿なども撃たれていることを無視しています。負傷してうつ伏せに倒れたところを、近寄ってきた兵士にとどめを刺されたと考えるのが妥当です。第三に、正面から近づいてきた政府軍と思われる兵士が発砲してきたことは、同行していた同僚の佐藤和孝さんも証言しています。第四に、反政府軍が自分たちのことを取材してくれているジャーナリストを殺す動機がありません。げんに山本さんと行動をともにしていた佐藤さんは、とっさに逃げ出して無事だったんですから、つじつまが合っていません」

「でも──」

「第五に!」武人くんは強い口調で遮りました。「9・11とか東日本大震災とかもそうですけど、名探偵気取りで幼稚な陰謀説を唱えて、人の死をゲームのように弄ぶ者を、僕は心底から軽蔑します」

 ああ、やっぱりすごく怒ってます!

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 この謀殺説も、当時実際にネットで流れたものである。

 なんとIchinoseyayoiはこの説に同調し、山本さんが反政府軍によって殺されたと主張していたのである。僕が怒っていることを知りながら。

 もっとも彼の文章には、秘密を暴いたような得意げな口調は感じられない。どうも山本弘の作品に間違いに思える部分を見つけ、こう書けば受けが取れる、読者に拍手してもらえると思いこんだのではないか。

 Ichinoseyayoiは知らなかったのだろう。佐藤和孝さんがどういう人物なのか。

 彼は山本美香さんにもっとも近い人物である。恋愛関係にあったとも言われている。彼は殺された山本さんと行動をともにしていた。


 愛する人を失った佐藤さんを傷つけることを、ichinoseyayoiは平然と書いた。


 僕はこの文章がカクヨムに掲載されることがだんじて許せず、カクヨムの編集部に連絡してichinoseyayoiの記事を削除してもらった。彼はアカバンをくらい、カクヨムに出入りできなくなった。だがツイッターのアカウントは残っており、今も活動を続けているらしい。(さすがに僕が脳梗塞になって以降のことはよく分からない)


 これも『幽霊なんて怖くない』で書いたことだが、人口の約三パーセントがソシオパス、反社会的人格障害者なのだそうだ。

 ソシオパスには次の特徴がある。「息を吐くように嘘をつく」「他人への共感がない」「罪悪感、自責の念、羞恥心がない」「友人がほとんどいない」……。

 ichinoseyayoiはソシオパスと考えて間違いなかろう。


 これまでの僕の著作を思い出してみれば、社会的弱者にたいする共感というのが常にあった。『妖魔夜行』『サーラの冒険』『神は沈黙せず』『トワイライト・テールズ』『アイの物語』『詩羽のいる街』『BISビブリオバトル部』……いじめられっ子、少数者、精神障害者……。

 この世界は間違っている。みんなが少しずつ賢くなってくれれば、世の中は今より良くなるはず。そう信じていた。


 だがichinoseyayoiのようなソシオパスはどう考えばいいんだろう。

 他人への共感を抱けない人間には、こちらも共感をいだけない。


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