減速された時間の中で

 先週の日曜日、友人の鋼鉄サンボくんが仕事場に遊びに来た。僕と同じく熱烈な特撮ファンである。

  真っ先に彼にお願いして、僕の部屋のDVDデッキを直してもらった。壊れたわけじゃない。単に僕が使い方を忘れてしまっただけだ(笑)。

 脳梗塞で参るのは、身近にあるリモコンなどの使い方だ。特にテレビやビデオなどのデッキ類。脳が正常な状態でもいろんなリモコンがごちゃごちゃになってて、わけがわからなることがあるものだが、脳梗塞になるとそれがさらにわかんなくなる! どのリモコンがテレビで、どれが衛星放送で、どれがデッキなのか。

 そんな訳で僕は買い集めたDVDをまったく見ることができない状態だった。いや家に帰れば我が家のデッキはあるし、分からないことは妻や娘に聞けばいいんだけど、仕事場のデッキは難しすぎて無理。いくつあるんだリモコン。

 幸いサンボくんが来てくれたおかげで、DVDを見れるようになった。持つべき者は友達だ!


 さっそく見てみる。『戦えマイティジャック』の弾超七の話だ。源田と二人で「世界は二人のために」をデュエットするシーンなんて、今なら薄い本のネタにされる(笑)。この頃すでにセルフ・パロディというのをやっていたというのは大したものだと思うけど。


 その後、彼はまだ『ミステリー・ゾーン』を観たことがないと判明。この前のリベンジで、『ミステリー・ゾーン』をサンボくんに布教しようと思いつく。

 選んだのは「到着」と「生と死の世界」。案の定、受けた。「すごいですね」と感嘆するサンボくん。そうだろう。どっちも僕が高校時代に再放送で見て驚嘆したエピソードだ。

 僕がいまここにいるのは、ロッド・サーリングのおかげと言っても過言じゃない。


 さらに僕のコレクションの中から古典的な特撮作品を選び、適当にダイジェストして上演。僕の好きなジョン・P・フルトンの『透明光線』『電気人間』『逃走迷路』『黒い絨毯』は今見てもびっくりする。他にも『雨ぞ降る』のような古典的ディザスター映画や、『モノリスの怪物』『顔のない悪魔』のような怪獣映画、『悪魔の人形』『ドクター・サイクロプス』なんかも。特に『顔のない悪魔』はB級映画が好きな人間なら食いつくと思った。

 ああ、自分の好きな作品を見るのもいいけど、自分の好きな作品を誰かに見てもらうのも格別だよね。またこういう上映会を開きたい。『シカゴ』とか『トコリの橋』とか『同志X』とか『暁の出撃』とか『猿人ジョー・ヤング』とか『蠅男の恐怖』とか見せたい映画は山ほどあるよ。



 ところで、この日記を読んでいるあなたに、ちょっとだけご注意。

 これをなんとなく読んでいたら、「山本弘の脳の働きはずいぶん回復してるんだな」と思っていないおられないだろうか。

 すごい勘違いですよ、それは。

 あなたがさっと読み飛ばした文章は、僕が長い時間をかけて書いたものだ。

 ほんの二三行の文章でさえ、何分もかかっている。

 それにすこし長い文章を書いたら、休憩して一休みしなくちゃいけない。

 つまりあなたの頭の中に浮かんだ僕の文章は、実際の僕の文章を、高速にスピードアップしたものなんだ。


 今の僕は、ハミルトンの「異境の大地」の主人公の心境だ。

 一対百というほどじゃないが、ゆっくりと流れる時間の中に閉じ込められて、周囲の高速の時間とのギャップに苦しめられている。

 誰かに助けを求めようとは思わない。僕にしかどうにもならないことだから。

 少しずつではあるが、時間に復帰しなくてならんのだよなあ。


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