第5話 『GRIDMAN』で未来が見えた・2


 もちろん、リメイクするのは昔の特撮番組に限った話じゃない。昔の小説を現代にリメイクするのもアリだと思う。

 たとえばE・E・スミスの『レンズマン』シリーズ。

 昔、アニメになったことがあるが、何であんなにつまらなかったんだろう。たぶんアニメの製作者としては、1920年代に書かれた原作だから、現代風にリメイクしなければならないと思い込んだんだろう。余計なことをするもんだ。

『レンズマン』は原作がいちばん面白いんだよ!

 嘘だと思うなら古橋秀之の『サムライ・レンズマン』読んでみろ。スミスの遺族の許可を得て書かれた、パロディじゃなく本物の続編! いやー、これは燃えるわ。

 それでは現代的な要素が足りないと思われるなら、『レンズマン』シリーズの第四作『レンズの子供たち』のアニメ化ならどうだ? キムボール・キニスンの四人の娘たちが主役。それぞれ超能力を持ち、兄と三体の異星人(ヴェランシア人のウォーゼル、リゲル人のトレゴンシー、パレイン人のナドレック)とともに巨大な陰謀に立ち向かう! 萌えるでしょ、この設定!


 さて、E・E・スミスには他にも傑作があるぞ。1928年に出版された『宇宙のスカイラーク』だ。

 個人的は岩崎書店版を支持する。そう、ドロシーがシートンの妹になってるやつ!


岩崎書店・児童向けSFの世界〈前編〉

https://shimirubon.jp/columns/1673325



【 しかも、2004年に〈冒険ファンタジー名作選〉の1冊として復刊されたバージョンでは、庄司卓『それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ』などのイラストを担当した赤石沢貴士さんが挿絵を描いていて、“妹”のドロシーや、のちにクレーンと結婚するマーガレットが、いかにもなアニメ風美少女になってます。「萌えるスカイラーク」と呼びたいです。(先の『栄光の宇宙パイロット』のイラストも赤石沢さんです)

 ただ、ストーリー自体は原作にきわめて忠実。金属Xをせり落とすところや、対物コンパスでデュケーンの宇宙船までの距離を測定するくだりなど、原作の名場面はきっちりおさえてあります。悪役デュケーンのかっこよさもちゃんと表現されていて、そういう意味では良心的な翻訳です。ハヤカワSFシリーズ版も創元推理文庫版もとっくに絶版ですので、今、『スカイラーク』が読めるのはこの〈冒険ファンタジー名作選〉版だけ。貴重です。】


 本当に悪役のデュケーンがかっこいいんだ! あとマーガレットがメガネっ子になってて、これはアリだなと思った。

 下手に改変するのはけしからんけど、原作より面白く改変するのは大歓迎だ。


 他にも現代に復活させてみたい作品はたくさんある。たとえばジェイムズ・H・シュミッツの『悪鬼の種族』である。原作は1968年に書かれている。前に『BISビブリオバトル部 翼を持つ少女』で紹介している。

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「ああ、これですか」彼女はほっとしたようだった。「お借りしたシュミッツの『悪鬼の種族』です。海に覆われた辺境の惑星に、パラファン族っていう異星人が侵攻してくるんですけど――」

 しまった。こいつに「何読んでんだ?」なんて訊くんじゃなかった。

「――彼らは前に人類に戦いを挑んで敗北したことがあるんですけど、人類みたいに統一の取れてない種族に負けたことが信じられないんです。それで、きっと人類の背後にはもっと高等な種族が隠れていて、こっそり指揮してるんだって信じこんで、ツーベラと名づけたその高等種族を見つけようとしてるんです。この惑星を訪れたナイルっていう若い女性生物学者だけがそれに気づいて、ツーベラのふりをして、たった一人でパラファン族に立ち向かうはめになるんです。若い女性がたった一人で異星人の侵略と戦うんですよ? 燃えるシチュエーションでしょ? あと、何と言っても、この惑星の生態系の描写が素晴らしくて――」

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 今ではハヤカワ文庫が絶版で、この作品の面白さを知ることは不可能なのだ。これは悔しい。ナイルが派手な武器ももたず、ほとんど裸に格好で、知恵と度胸と口八丁手を武器に異星人の軍団に対等に渡り合うのがもうたまらんのよ! 萌えるよ、これ!


 そうそう、空が言いかけた「惑星の生態系の描写」もほんとに素晴らしい。シュミットという作家の生態系の描写力について知りたければ、「おじいちゃん」がおすすめ。創元SF文庫の『黒い破壊者』というアンソロジーに入ってる。

 他にもシュミットには『テルジーの冒険』『惑星カレスの魔女』という少女を主人公にした冒険もの(ただし大人向けの)がある。そう言えば「おじいちゃん」も15才の少年が主人公だったな。こういう話、好きだったのかも。


 ところで最近、芦辺拓さんが西条八十の『あらしの白ばと』という60年前の少女向き小説を現代に復刻している。僕も読んでるんだが、とてつもない発想で驚いてる。

 女学生が「白ばと組」というグループを結成、「少女をいじめる悪人は、少女の手でほろぼす」というモットーを掲げ、悪人と戦うという話。だが、プリキュアみたいな夢あふれる甘い話を想像したら大間違い。

 悪人どもが本気で白ばと組を殺そうとする! 爆弾を投げてきたり、毒を飲まそうとしたり。

 対する白ばと組も容赦がない。人殺しはしないけど、悪人を捕まえて島流しにする(たとえ話ではなく、文字通りの意味で)

 昭和30年代にこんなすごいことやってたんだ、西条八十という作家。

 僕ら現代の作家が、昔の作家から学ぶべきことはまだまだ沢山あると思う。


 まあ現代の目で読むと、作中に「萌え要素」が足りないのが気になる。この時代の小説だからしょうがないけど。

 でも吉田武子と東茉莉子の関係は今でいうところの「百合」だよね(笑)。

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