あるRの出来事 番外編

月のきおん

第1話

里子ことRはスーパーマーケットで働くアラフォー世代。


今日も接客に励んでいる。


毎日お客さん相手をしていると、自然にありがとうと言う言葉が出てくる。


だがこの立ち位置が一番自分に合うような気がしないでいる。

最近何だかようすがおかしい。

先日はお客さんからクレームをもらった時は、こんな仕事向いていない!と思う。


それはRが仕事していた時だった。

商品の卵をレジでバーコードの読み取りをしてカゴに入れる際に床に落としてしまった。

その時謝って舌を出してしまったのが良くなかった。

お客さんはRのそんな行動に大激怒してその場で怒って帰ってしまい大騒ぎになってしまった。


結局店長さんが一緒に謝ってくれて直ぐ話は済んだ。

だが普段仕事で殆ど失敗をしなかったRはこの騒ぎで仕事に力が入らなくなった。


ふとした事で涙が出る様になる。

良い事でも悪い事でも、涙が止まらないのだ。

私元からこんなに感受性豊かだったかな。


3日前から飼っている猫が亡くなり泣いて過ごす毎日を送っていた。


そして一か月が経つが隣の家の横谷さんの奥さんが亡くなった。

よくRは小さい頃からお世話になっていたからとても悲しかった。

旦那さんはいつもニコニコしていて悲しんでいる様な素振りを感じない。


皆一体こんな悲しみをどうして堪えて生きているのか。

生きるそれ自体考え出すと止まらなくなる。

アラフォー世代のおひとり様Rにはとても毎日気の休まる時は無いのが現実。


仕事も前の様に出来なくなる。

ふとハワイへ母親と一緒に旅行に行った頃を思い出す。

ハワイでも素敵な出逢いは無かったが。

あの頃はとても毎日楽しかった。


それからもう3年が経つ。

でも去年の事の様に思い出す。


そうだ、もう3年かぁ〜。


Rには恋人はいない。

この歳で結婚したり、彼氏がいる人はこの世に沢山いるのだろうが、私には何も無い。

そう考えると全てが馬鹿らしく思える。


そんな風に思う事が既にくだらない。

Rはお風呂の浴槽の中でお湯に浸かりながらそんな事を考えていた。


そもそも何故恋人出来ないのだろう。

ドライヤーで髪の毛を乾かしながらRは溜息をつく。


このまま歳を取りひとりで生きて行くのか。

皆寂しく無いのかなぁ。


それでも歳を取るんだよねぇ。


Rは冷えた缶ビールを飲む。

美味しいー!


このお風呂上がりにこのビールやめられないよねぇ。

部屋にはストーブがあり、お風呂上がりの体には暑い気がする。


Rは少し窓を開け外の空気を吸う。

はぁー!


そして床に横になる。


大の字に寝そべりながら、Rは以前少しバイトした、スナックの事を思い出す。

最近カラオケ行ってないなぁー。


あのお店久しぶりに訪ねてみようかな。


Rは少し気持ちが華やぐ様な気がした。

ママさん、タロー君に会いたいなぁ!

2人共元気だろうと思うが、又会いたくなって気になる。


今日からRは職場では2連休の休みに入る。

明日の夜に又行ってみようかなぁ。

Rはそんな事を考えていた。


季節は1月の終わり頃真冬の寒さで、湯冷めしない様に風邪引かない様に。


缶ビールを飲みながらカレンダーを見る。


そして遅い冬休みにスナックに行くのが楽しみだなんて少しおっさんぽいかなぁ。

バイトしていた時の事を思い出すとたまらなくなる。


テレビを見ていても最近あまり面白く感じない。

嗜好が変わったのか?


この歳でテレビが命なんてつまらないなぁ。

こんな事を考えるの変? 何だろこの感じは。


周りの友達や親戚達は皆結婚している。

私は自分って言う誇れる物があるのかなぁ。


43歳未婚でこんなで本当に良いのだろうか。

部屋でぽつんとひとりでいるRにしばらくすると転機が訪れる。


未だRには分からないのだった。


今晩はー!

スナック ルフランのドアを開ける。


普段からRはメイクをしないが今夜はバッチリしている。

ピンク色の口紅をつけてみた。


「あーら、Rちゃんじゃないの。」


ママさんは少し痩せて見えた。


「お久しぶりです、Rです。」


「おっ!Rちゃん、久しぶりだね。」


タロー君は眼鏡をコンタクトに替えたようだ。


お店の中も変わってはいなかった。


「今日は楽しいわねぇ。Rちゃんが来てくれたわぁー。」


ママさんは、少しも変わらないでお店で笑ってくれる。


「Rちゃん、何飲む?ウーロンハイかな?」


素早く注文した物が直ぐに出てくる。

カラオケしに今日遊びに来た事を言う。


タロー君はクラッカーを出してくれた。


「そう言えば、タローが結婚したのよ。奥さん今五カ月目に入るのよ。よくここにも手伝いに来る子よ。」


Rは先を越されたかぁ、と思う。


タロー君は恥ずかしそうに笑っている。

少しウーロンハイを呑む。


「私は今日はUFO歌います!」


自らカラオケの準備をして。


「手を合わせて見つめるだけでー。」


Rは歌い、ママさんとタロー君は手を叩く。


そこに、銀さんがやって来た。


「銀さーん。Rちゃん、来たのよー。」


「よっ!Rちゃん、久しぶりだなー!」


銀さんは相変わらず変わってはいない。


「俺も仲間に入れてくれぇい!」


銀さんは、いつもの水割りを少し呑み、クラッカーを食べながら。


「次は勝手にしやがれー、を歌うぞー。」


皆で手拍子足拍子。


「ワンマンショーでぇー!」


「名前は恵美ちゃんよ。30歳の隣街の子。タロー、最近大型の免許取りに行ったのよ。自動車学校で知り合ったんだって。」


タロー君の奥さんの詳しい話を聞いていた。


「今日は来れないよ、何せ身重で自由にならないから、大変そうでね。」


タロー君が恥ずかしそうに言う。


「とてもかわい子ちゃんだよぉー!」

銀さんが歌い終わり話をし出す。

他のお客さんにヒロさんが居る。いつもの顔ぶれだ。


ルフランは今夜も盛り上がっている。

正直Rはタロー君が結婚した事をココロの底で喜べないでいた。

タロー君が羨ましいなぁ。

だが新妻さんの妊娠については悪くは考えないでいれた。

私、危なく無いよね。

自分に問うR。


家に着いたのは1時位。ママさんに

レジでミスをして最近の生活ぶりも話を聞いてもらう。


そこにタロー君がルフランを辞めるとママさんから聞いた。

結婚して子供が出来たのを機に、夜の仕事を辞めてトラックの運転手をする事になり、調理場店員のバイト募集していると言うのだ。

その仕事バイトだがRにどうか、と聞いて来るママさん。

自分はママさん達やお客相手が嫌では無かった。

返事は一週間迄に決めて欲しいとの事。


布団に入り直ぐに寝てしまった。

寒い!朝方4時頃目が覚めた。


何か夢を見ていたが、又寝てしまい起きたのは9時。

Rは急いで着替えて朝ご飯を食べに台所に行く。

母親はもうとっくに仕事に行った。


バターロールにコーヒーを手に取り、ゆっくりコーヒーを飲みたいが、遅刻しそうだ!


急げ! 万事休す、ギリギリ間に合うが洗顔や歯磨きして来るのを支度をしていて忘れてしまう。

自転車も猛スピードで走るとかなり危険な行為。


お肌の曲がり角はもう既に過ぎているが、一応職場の食堂の水道で顔を軽く洗いうがいをしてミニタオルで拭く。


そして急いで事務所に向かう。

開店5分前だ。


朝の朝礼はもう終わっていた。


Rは主任に朝礼に遅刻した事を許してもらい自分の持ち場に着く。


「開店致します。おはようございます。いらっしゃいませ。」


ルフランで使ってもらおうか。


Rは簡単な調理位なら作れる。

分からないことはママさんに聞いてくれて構わないと言われた。

そしてRは調理師の資格に興味があった。

高校を卒業時に調理師学校に行こうか迷った。

結局直ぐスーパーマーケットに就職したので、それから考える事は無かった。


仕事中Rはあそこなら自分の居場所になるかもしれない。


今朝は眠くてたまらない。

未だ眠い。


Rは普段は寝起きは良い方だ。

深夜遅く迄酒の飲み方が良くなかった。未だ寝足りない。


そして早くもルフランに返事して、スーパーマーケットにも退職の件を言おうと決めた。


ルフランは毎日20時から2時まで営業している。

定休日は日曜日。

果たして2時迄働けるのかは分からないが。

普段は23時位に寝てしまう。


元々夜型人間のRだった。

子供の頃受験勉強をしていたが毎日深夜まで起きてよくラジオを聞いていた。


基本音楽が好きな親戚のお姉さんの影響で子どもの頃から音楽を聴いたりしていたからだ。

英語が得意だった訳では無いが、洋楽も少し聴いたりしていた。


Rはカーペンターズが好きだ。

中でもジャンバラヤと言う曲が好きで聞くと必ず踊り出す。

高校生の頃この曲を聴きながらよく友達を笑わせていた。

Rはそんな特技がある。


今日は仕事が捗るなぁ〜。

Rは悩みが吹き飛びすっきりする。


最近の暗い生活が全く違う又3年前に戻った様な気がした。

少し自分の人生のつまらないと思う気持ちが良い方向に向いていると思った。


素直に転職しても良いと思う。


ルフランで少しは人生が変わる、変われる。

ママさんなら一緒に仕事をしたい、と思う。


そんな風に考えていたら、ジャンバラヤの歌詞が出て来て踊り出しそうな気分。

仕事が終わり気持ちの整理をしたかった。

今夜からなるべく遅く寝ようと思い付く。


早くもそう練習したい気持ちだった。

10時からのスーパーの仕事では早目に寝たくなる。

2時迄のスナックの仕事は大変でないと言ったら嘘になるが、自分はカラオケが好きでよく一人カラオケにも行くし、事務とかよりも接客の仕事が向いている。


最近その接客のレジの仕事で人前でお客に怒られる事件を起こしてしまったが、そんな事があっても自分がルフランで働ける。

Rは幸運にもスナックの調理店員の仕事をずっと続けれたら良いなぁと思う。


未だ仕事をする前から自分は飛ばし過ぎかもしれない。

だがこれを今していたい。

究極の幸せ者だ、私ぃ〜。

顔がにやける自分がいる。


今回ルフランに遊びに行かなければこんな事にはならなかったかも知れない。


こうしてRは昼間とは反対と違う世界を歩む事になる。


母親には今夜話ししてみよう。


「ルフランに転職するのよ。」


翌日仕事が終わり山岡よしみにも話をした。


「えー、R辞めるの?レジ。」


「もう決めたの。昔からカラオケ屋で働きたいと思った事があったしね。」


「そうなのね。それなら頑張ってね、R良かったわね。」


「遊びに来てね、お店で待ってるから。」


よしみは少し寂しそうだったが、直ぐにいつもと変わらずに家に帰って行った。


今夜ルフランのママさんに電話で返事しておこう。


ママさんはRの返事に喜んでくれた。

「仕事は選ぶ物ではないのよ。何事も経験よ。」


ママさんはRにそう言った。


この話を聞いて早くも4日が経ち、ママさんは早目な返事に安心した様子だった。


ママさんの裏表の無い性格にRも嬉しい。


素直に喜ぶRとママさん。


昨夜母親にはよしみと同じ事を話をした。

母親はあまり嬉しそうでは無かった


「何故又夜のバイトなの?里子。」


よしみも似たようなリアクションだった。

今迄のRだったら多分皆そう言うだろう。


そして母親は、彼氏は今いないとか、未だ結婚はしないとか聞いてきた。


Rはこの話最近の自分の置かれている状況と自分のやりたい事が重なりママさんに返事した事を告げた。


母親もそれならば、

と首を縦にして頷く。


「ママさんは安心出来る人ね。母さんも安心して居られる。頑張ってね、里子。」


母親はそう言い炬燵で寝てしまう。

1日働いている母親は事務の仕事をしているが常日頃から持病の頭痛持ちだった。

パソコンと一日中にらめっこしているので眼や首や肩、腰などが痛くなるのを、毎日気にしている。


本当は結婚は子供を作る為だけでは無いのよね。

Rは結婚はそれが目的だと昔は単純にそう思った。


だが今はそんな風には思わなかった。

それが全てでは無いのだ。絶対に。


よしみ達も子供は居ない。

そんな風に考えるのはこの43歳のRだからだった。


そんな風に考えれる事が出来るならもう迷ってはいない。

ルフランに迷いは無い。


Rはシャワー後に体重を測りながらそう思う。


翌日スーパーマーケットに退職したいと話す。

同僚、主任や店長から、スナックに遊びに行くからと言われ、Rは嬉しかった。


たかがスナックのアルバイトなのに。

あなたはそう思うかも知れない。

でもそんな生き方のRはとても幸せ者なのだった。

仕事に自分の好き嫌いでを持ち込むのも良くないと思う。


全てここからのスタート。

また新たな再スタートだから。

又皆からRと又呼ばれるのかなぁ。

私はRこと里子と言います。43歳、未婚です。




























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