第13話 放課後の教室で
朝一番にリンダと初めて喋ったという衝撃の出来事はあったものの、今日の授業も何事もなく平穏無事に終わった。
世界は平和だ。これから帰る生徒もいれば部活に行く生徒もいる。解放感に包まれる放課後の教室でミリエルは席に座ったまま背伸びをした。
耳に生徒達の雑談の声が届く中、内からの声が話しかけてくる。
『お前はこれからどうするのだ? またどこかの部活とやらに顔は出さんのか?』
「わたしは部活はやってないからね。帰って勉強するだけよ」
『お前なあ。何か面白いことをやるつもりは無いのか? みんな楽しそうにしているぞ』
「別に誰かを楽しませるために学校に来ているわけじゃないから」
確かにクラスを見回せばみんな和気あいあいと楽しそうにしているが、だからと言ってあそこに交じりたいと思うわけでもない。
みんなと一緒に楽しみたいなら自分なんかに構ってないで誰か他の人のところに行けばいいのに。そう不満に思ってしまう。
それに自分だってやりたくなくて部活をやってないわけじゃない。ただ馴染めないだけだ。この学校の空気に。
ネネやシズカは良い人だけど、やっぱり自分が行くと部活に場違いな空気を与えてしまうと思う。
ミリエルは疲れたため息を吐いてから鞄を持って歩こうとして、その前に声を掛けられた。
「ミリエルさん、ちょっといいかしら」
知らない声じゃない。今日初めて言葉を交わした少女の声だ。また再び声を掛けてくるとは思ってなかったけど。
振り向いた先にいたのは案の定リンダだった。明るい顔をして偉そうに胸を張って立っている。
「お帰りになる前にもう一度念を押しておきますが、分かっていますわね?」
「うん、今度アルトさんに会ったら伝えておくよ。いつ帰ってくるか分からないけど」
「それはこちらでも調べておきますわ」
調べられるんだ。なら口利きも自分ですればいいのにと思うが、断るのも面倒だ。話せば彼女は満足するのだろう。
了承してうなずくとリンダはパッと明るい笑顔になった。
「任せましたわよ、ミリエルさん」
気前よく肩を叩いて自分の部活へと向かって去っていく彼女を見送る。
教室を出て廊下で会わないように数秒待ってから再び歩こうとすると今度はネネがやってきた。
「ミリエルちゃん、リンダちゃんと何話してたの? そんなに仲良くなかったよね?」
「えっと……」
「もしかしていじめられてたとか? だったら先生に話すけど」
「それは……」
別にいじめられてたわけでもないのに変な誤解で先生に怒られたらリンダがかわいそうだ。仕返しされたくもない。
特に隠すことでもない。ネネに話すことにした。
「アルトさんを紹介してくれって頼まれたの」
「アルトさんって…………」
ネネは知らないようだ。考えたまま動きが止まってしまった。分かるまで友達に考えさせることもない。そのこともネネに話すことにした。
「父さんの弟子で今勇者をやっている人」
「あ、そんな人がいたんだね」
「いたんだねって……」
やっぱり父に比べたらマイナーなのだろうか。ネネは恐縮した。
「ごめん、気づかなくて」
「いや、いいけど」
「ミリエルちゃんのお父さんの関係者ならリンダちゃんが頼みに来るのも仕方ないかな。リンダちゃんのお父さんって新参者には良い顔をしてないみたいだから、そっちにはパイプが無いんだよ」
「新参者かあ……」
やはり自分達はそう見られているのだろうか。考えてしまうミリエルだった。
ネネは何も気にせず優しい声を掛けてくれる。
「ミリエルちゃんはそのアルトさんのことをどう思っているの?」
「どう思ってるって……」
ネネの疑問に考えを巡らしてみる。だが、ミリエルが答えを出すまでもなくネネは勝手に何か納得したようだった。
「その反応で察したよ。また明日ね、ミリエルちゃん」
「うん、また明日」
嬉しそうに弾む笑顔で教室を出ていくネネを見送る。見えなくなってから中の声が話しかけてきた。
『お前って言葉に出すまでもなく態度に出るよな』
「え? わたし何か出てた?」
『ああ、お前の態度はアルトさんには興味がありませんって言ってたぞ。だから、ネネも嬉しそうな笑顔になっていただろう』
「別に興味がないわけじゃないし、ネネちゃんが笑顔なのはいつものことだけど」
『気づかないならそれもいいかもな。お前は面白い奴だ。クラスの連中にも見てて楽しい奴だと思われてるのだろうな』
「うわ、嬉しくない褒め言葉」
ミリエルは自分が注目されるようなことは無いと思っていたのだが。
何か変な態度が出ているなら気を付けないといけないと思うのだった。
教室を出て放課後の廊下を歩いていく。
昇降口で上履きから靴に履き替え、足早に学校を出て行った。
今日は魔法部に寄り道していなかったので明るいいつもの時間帯だった。
でも、家に着く前にちょっと試そうと思っていたことがあった。
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