赤色新人の明るい回り道

星薔薇アズ

 12月24日、クリスマスイヴ。街は明かりで彩られ、雪が景色を照らしていた。ホッと息を押し出すと、真っ白になっては消えていく。そんな真冬の聖夜の中、1人落ち着きが全くない少年がいた。


「どうしよ、早く出発の準備をしないと!」


 真っ赤な洋服を見にまとい、袋の中に詰め込んでいく。少年は今年デビューの新人サンタクロース。子供達に夢とプレゼントを届けるサンタだったのだ。ドタバタした少年サンタを、トナカイは呆れた様子で見ている。日付がもうすぐ変わる頃、少年サンタはようやく支度を終え、外に出た。周りはすっかり白くなり、イルミネーションを背後に写真を撮る人集りがあった。少年サンタは人目につかないよう、裏道に入っていく。


 細い道を抜け、白く覆われた広い場所に出た。そこに、どんどん人が集まってくる。全員、赤い服で身を包んだサンタだった。皆、慣れた動きで艝にプレゼントの入った袋を積んでいく。少年サンタも急いで、体の何倍もの大きさの袋を艝に乗せた。全員が積み終えたところで最年長のサンタが口を開いた。


「さて、今年もこの日がやってきた。赤き同士達よ!今年も聖夜の空より、子供達に夢を運ぼうぞ!」


 この言葉を聞き、サンタ達は艝に乗り込み、空へと飛び立っていく。少年サンタも少し遅れて、空に溶けていく。配る物のリストと子供のリストを念入りに確認しながら。


 2、3分飛んでいると、ようやく1軒目に着いた。子供が起きないように静かに部屋に入っていく。眠っている子供の頭元に置いて部屋をゆっくりと出る。1軒、また1軒とプレゼントを運んでいく。数10軒配り終えた時だった。艝が急激に軽くなっていたのだ。不思議に思い、少年はプレゼントの入った袋を確認する。少年は酷く驚いた。袋の中には、プレゼントが残っていなかったのだ。慌て、周囲を見渡す。しかし、当然だが周りには人影なんて見当たらない。すると、トナカイが全速力で艝を引き出した。少年はビックリし、慌てて縄に掴まった。トナカイは一直線に進んでいく。少年は縄に掴まるので、精一杯だった。街から出てもトナカイは全く止まらない。街灯がどんどん遠くなっていった。


 街が見えなくなってから1時間が経った。トナカイは少しずつ速度を落とし、雪原へと降りた。少年は辺りを見る。雪の降り積もった木々が並ぶ森以外、何も無かった。少年は恐る恐る森の中へと進んでいく。そもそも少年はわからなかった。自分がどうして歩いてるのかを。ただトナカイが降りた近くに森があったという、確証の得られない手がかりを信じたのだ。暗い道をひたすら進んでいく。恐怖はもう、ほとんど失われていた。すると森の奥から風が吹いてきた。咄嗟に木に身を隠し、帽子を押さえる。目を凝らし森の奥を確認する。何か物陰が蠢いていた。少年は物音を立てず、ゆっくりとその距離を縮めていく。何者かは動きを止め、少年がいる方を見つめる。犬だ。森の奥にいたのは犬だったのだ。犬の横を見ると、プレゼントの山があった。よく見てみると、1人の少女が眠っていた。プレゼントに近づこうとすると、犬は吠え牙をむいた。少年は戸惑い、立ち止まった。少女が目覚めるのを待とうか、しかし今年の聖夜は今だけだ。そんな事を考えてる内にもどんどん時間は過ぎていく。結局少年は、少女が起きるのを待つ事にした。焦る気持ちをグッと抑えながら。


 待ち始めてから数分経った。少女が目を覚まし、ゆっくりと起き上がった。少年は話しかけようと近づく。しかし、犬が少女を守るかのように立ち塞がり威嚇した。


「ペロちゃん、ダメだよ〜。すぐに吠えたりしちゃあ〜。ごめんね、サンタさん。ようこそ私の家、茨の森庭に」


 少女が犬を撫でると、吠えるのをやめ座り込んだ。少年は安心し、歩いていく。少女は少年を優しくもトゲトゲしい目で見ていた。


「君がプレゼントを持っていったのかい?」

「そうだよ〜。昨年プレゼントなかったから。その前も…その前も…ずっと…。だから私は許さない。サンタを…」


 少年は痛い程わかった。少年もプレゼントを貰った事がなかった。だから同じ気持ちになる人がいなくなるために、サンタになったのだ。少年は笑顔で、だが真剣な眼差しで話しかけた。


「わかるよ…君の気持ち。でもそのプレゼントは渡せない。それには、1人1人の夢が詰まってる…。だから…」

「うるさいうるさい!何言われても返さないから!」


 少女の声に反応し、茨が少年を縛り上げた。少年は抵抗せず、真剣に少女をじっと見ていた。静かに少年は話しかける。


茨姫いばらぎ零愛れいあちゃん…そうなんだね?」


 この一言に驚いたのか、少女は黙り込み茨の拘束を解いた。少女は涙を流し、その場に座り込んだ。少年は近づき横に座った。


「零愛ちゃん、君へのプレゼント…今すぐには渡せない。だから、待っててくれないかな?この残りのプレゼントを配ったら、必ず戻るから」


 少年は立ち上がり、プレゼントを袋に入れていく。すると、茨がプレゼントを袋に詰め出した。少年が思わず振り返ると、少女が裾をつまみ静かに言った。


「私にも…手伝わせて…。私のせいで、時間…ギリギリなんだから…」


 少女は黙々と作業を始めた。2、3分経ち、2人はプレゼントを袋に詰め終えた。少年は袋を背負い、少女の方を見た。


「行こ!零愛ちゃんも一緒に!」


 少年は少女の手を握り、森の外へと走り出した。


 森の外では、トナカイが今にも飛び出しそうな勢いで待っていた。少年は少女と袋を乗せ、艝に乗り込んだ。トナカイは乗った事を確認すると、全速力で飛び出した。来た道を真っ直ぐに帰っていく。少女は空を飛んでいる事に感動していた。しばらく経って、ようやく街の光が見えてきた。街はすっかり夜の中で、家の灯りはほとんど消えていた。少年はリストを確認し、プレゼントを配っていく。夜が明けそうな頃、ようやくプレゼントを配り終えた。しかし、少年はリストを見つめている。そして少年は、艝を雲まで進めた。少年は静かに待った。数分経ち、遂にその時がやってきた。少女は感激し、艝から身を乗り出した。朝日だ。地平線の彼方から太陽が昇ってきたのだ。


「零愛ちゃんの欲しかったもの。空高くから太陽を見る事。メリークリスマス、零愛ちゃん♪」

「サンタ…さん…ありがとう…」


 少女は感動し、涙を流す。だが、その表情は笑顔でいっぱいだった。少年は自分の被っていた帽子を少女に乗せた。今年のクリスマスの朝日はいつも以上の美しさだった。


 あれから10年経った。今年もまたクリスマスイブがやってきた。今年も雪が輝き、イルミネーションが街を盛り上げていた。少年サンタは、立派な青年になっていた。準備の動きに余裕ができ、すっかり一人前になっていた。トナカイも安心し、のんびりとしている。青年が今宵配るプレゼントのリストを確認していると、後ろから女性が抱きついた。その女性の左手薬指には、アクセサリーが着けられていた。青年は女性に微笑み返す。青年の指にも、アクセサリーがあった。


「零愛ちゃん、行こっか。今年もプレゼントを配りに。そしてあの景色を見に」

「うん、行こ♪あなた…じゃなくてサンタさん♪」


 赤い洋服に身を包んだ2人は手を繋ぎ、聖夜の空下へと出た。


「あ、そうだ。これ…」


 青年は女性の後ろから首元にアクセサリーをかけた。女性は頬を染め、はにかんだ。


「これは記念日のプレゼント♪じゃ、僕も貰うね…」


 2人のサンタは互いに笑い合い、接吻を交わした。

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赤色新人の明るい回り道 星薔薇アズ @SeikaAosaki

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