女その三人とその男(5)
コンビニで買って来たビールを一本新しく開け、残りを冷蔵庫にしまうと部屋の窓を開ける。
「今日は天気がいいけん甲羅干し日よりやね、ミドリ」
片桐賢一は水槽を窓際に寄せた。
「にしてもさっきはひどい言われようやったよ」
ビールを一口飲み、スルメを口に加える。
ギョロリとミドリの目がスルメを追う。
「童貞とかホモとか訳分からんわ」
確かにBarではちゃらい男を演じたところはあるかも知れないが、バーテンダーってそんなもんじゃないだろうか?
普段からあまり自分を出す方ではないが、まさかここまで誤解されているとは思わなかった。
ふと不安になる。
今こうしている自分は本当の自分だろうか?
「いや、いや、いや、いや」
首を激しく横に振る。
童貞でもホモでも女たらしでもない自分は本当の自分だ。
それだけははっきりしている。
だが....。
「篠崎さんにはぼくは童貞に見え、陽子さんには女ったらしに映り、あのおたくっぽい女子高生はぼくをホモと思ってたんやなぁ」
顎に手を当て今朝剃り残した髭に触れる。
「でもそれって、そのまんま三人を映した感じじゃないか?ぼくやなくてさ」
彼女らはぼくの中に自分の一部を見いだし、そこから何かを探そうとしたのではないだろうか?
「それにもしかしたら」
独り言ちる。
ぼくにもその要素みたいなものがあるのかも知れないな。
ぼくが気づかないだけで。
今までぼくは自分を分かっていると思っていたけど、意外とそうじゃないのかも知れない。
もしかしたら、
「内なる自分と他人から見た自分の両方で、本当の自分なのかも知れないなぁ」
ぼくは声に出してそう言ってみた。
ビールの缶を凹ませパコンと音を鳴らす。
「ミドリにはぼくはどんなに映っとうんやろ」
甲羅を指で撫でるとミドリは気持ち良さそうに目を閉じた。
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