女その三人とその男(4)
「会社にはバイトの件内緒にしておいて下さい」
この近所に住むという片桐賢一は美穂を拝むように背を丸め両手を合わせる。
その肩を陽子は叩き尋ねる。
「ねえ、ケンちゃんって童貞なの?」
「は?」
片桐賢一は怪訝そうに顔をあげた。
「あ、待って待って」美穂が慌てて陽子を遮る。
「それより片桐くんってBarに来る女食いまくってるたらしだってホント?」
その横で芽以がぼそり。
「ホモじゃないんだ」
片桐賢一の顔が歪む。
「一体なんのことですか?」
寝癖のついた頭で片桐賢一は背筋をピンと伸ばす。
よく見るとグレーのスウェットの胸元に食べこぼしのような染みがついている。
「なんだかよく分かりませんが、ぼくは童貞でも女たらしでもホモでもありませんから」
手に持ったビールをぐびりと飲む。
「片桐くんって休みの時はいつもそんななの?」
美穂の横で芽以が激しく頭を上下に振る。
「そんなって何です?」
「いや、会社ではすごくきっちりしてるじゃない」
「仕事とプライベートは別ですよ」
「本屋に来てるときは?」
芽以が美穂の影に隠れるようにして言った。
「ああっ、そうだ君、よく代官山の本屋で見かける子だ。どこかで見たことがあると思ったんだ」
片桐賢一は小さくため息をつき、ぐいっとビールを飲み干すと、缶をゴミ箱に投げ入れる。
それを見た芽以は目眩を感じた。
「とにかく、ぼくこれからいろいろすることあるので」
では、と片桐賢一は三人に背を向け歩いて行ってしまった。
三人はしばらくその後ろ姿を見つめていたが、通りの向こうに影が消えると、
「帰ろうか」
そう言ったのは陽子だった。
美穂と芽以もそれにうなずく。
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