女その三人とその男(3)


 “あの人”に会いたい。


 いるはずもないのに人ごみの中“あの人”を探す。


 今すぐ会いたい。


 赤になりかけの横断歩道を走って渡り、肩で息をしながら芽以は立ち止まった。


 陽子と美穂は取り残される。




 その男は目の前のコンビニから出て来た。


 グレーのスウェットの上下にくたびれたサンダル、寝癖で髪は斜め横になびいている。


 全てがイメージと違ったが影を作る長い睫毛を持つその顔は、まさしく芽以が今会いたいと思っていた“あの人”だった。


 本とコーヒーの代わりにコンビニの袋と缶ビールを持って。


 自分を凝視する芽以に気づいたその男も芽以をじっと見つめる。


 青になった横断歩道を渡って陽子と美穂が追いついた。


 美穂が急に立ち止まったので後ろの陽子が美穂の背中にぶつかった。



「片桐くん」


 陽子が美穂の肩越しから顔を覗かせる。


「ケンちゃん」


 美穂と陽子ほぼ同時に言った。


「あの人....」


 芽以が呟く。


「あれ篠崎さん、陽子さんも」


 その男は美穂と陽子を交互に指差す。


「なんで二人が一緒にって二人は知り合い?」


 美穂と陽子はまた同時にしゃべり出す。


「片桐くんこそここで何してんの?」


「ケンちゃん何故ここに?」


 美穂と陽子は飛び出そうなほど目をむき出しお互いの顔を見る。


 その間で芽以がぼそりと呟く。




「まじ?」



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