女その三人とその男(1)


「今日はカフェでお茶しない?」


 土曜のいつものヨガクラスの後、そう提案したのは陽子だった。


「さんせい、さんせい」


 芽以は声を上げ、何も言わない美穂はそれが承知を意味する。


 通りを挟んだスポーツクラブの目の前にあるカフェは外国のように道端に白く丸いテーブルを並べていた。


 梅雨の晴れ間の今日、新緑がちょうどよい木陰を作る場所を三人は陣取った。


 ヨガクラスの感想を一通り述べ本題に入る。


 週に一度の報告会。


 なんとなく年功序列で陽子が一番だ。


「わたしは別にこれといってバーテンダーとは何も進展はないわ」


 あの日、陽子の頬を伝う涙に気づかないふりをする賢一の横顔を思い出す。


「でも彼はほんとうにいい男よ」


「そんな安いホストみたいな男がですか?」


 美穂がアイスラテの氷を噛み砕きながら言った。



「失礼ね、確かにちょっと軽いかも知れないけど堅物の童貞男より面白いわよ」


「でも結婚相手は浮気をしなさそうな堅物が良くないですか?」


 言い終わり美穂ははっと口を噤む。


 一瞬だけ顔を引きつらせた陽子はそれでも無理に笑みを作った。


「そうね。で堅物くんはどうにかなりそうなの?」


 あの時、電車を降りた美穂はホームから車内の片桐を振り返った。


 片桐はバックから本を取り出すとそれに目を落とす。


 もしかしたら自分を目で追ってくれているかもしれないとほんの少しでも期待した自分が馬鹿だったと、美穂は胸に刺さる痛みを慰めた。


「彼は不落の城です」


「堅物草食童貞が?」


「だからこそです」


 美穂は大袈裟なため息をつくと肘をついた。


「でも、それがいいんです」


 なかなか手に入らないからもっと欲しくなる。


 痛いけどわたしは大丈夫。


 美穂はもう一度ため息をついた。


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