腐女子芽以(3)
どうして。
瞼の裏の“あの人”の唇を固くて冷たい紙コップのふちから想像しようとするが上手くいかない。
どうしてわたしは。
芽以はゆっくりと目を開け空を仰いだ。
灰色の重そうな雲に見下ろされている。
男に生まれてこなかったのだろう。
雲の向こうにいるかもしれない何かに訴える。
どうしてわたしは女に生まれてきてしまったのだろう。
本屋のガラス窓に映る自分。
ぽっちゃりの体に小さな目と丸い鼻、頬には白い芯のあるニキビができている。
顔を背けたくなるほど醜い。
女、それも美しくない女だ、わたしは。
芽以はいつだったか陽子が言った言葉を思い出した。
「芽以ちゃん、女はね恋をすると綺麗になるのよ。芽以ちゃんも本当の恋をすれば蛹から蝶が孵えるように綺麗になるわよ」
「陽子さんとわたしとでは元々の素材が違いますよぉ」
なぜだか陽子は寂しそうに笑った。
「人を魅了する美しさは目で見えるものではなく、匂い立つものなのよ」
「意味が分かんないですぅ」
「恋をしたら女の子は魔法にかかるの。その魔法こそが美しさの素なのよ」
魔法は目に見えないでしょ、と陽子は片目を閉じウィンクをした。
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