腐女子芽以(2)
代官山にあるお洒落な本屋の一角で“あの人”は粉雪の散らつく中、白いベンチに座り本を読んでいた。
鼻筋の通った白い横顔、伏せられた目の下に影を作るほどの長い睫毛。
一目見た瞬間に芽以は恋に落ちた。
けれど“あの人”の恋の相手は芽以であってはならなかった。
どんなに愛らしい少女でも魅力的な大人の女でも駄目だった。
“あの人”の恋の相手は薄いひょろひょろとした男の人でないといけないのだ。
そうでないと世界が成り立たないのだ。
一度“あの人”がすらりと背の高い男の店員と話をしている姿を見たことがある。
妄想通りの声の“あの人”に芽以の心臓は張り裂けそうになった。
“あの人”はいつも屋外のテーブルでテイクアウトのコーヒーを飲みながら本を読む。
芽以は本屋の中でガラス越しに“あの人”を観察し続けた。
その日“あの人”はコーヒーカップをベンチの横のゴミ箱に捨てた。
いつもは飲みかけのコーヒーを持ち帰るのに。
鼓動が早くなる。
“あの人”の後ろ姿が坂の向こうに消えると芽以は外へ飛び出した。
ゴミ箱に捨てられたコーヒーカップを拾いあげ、小さく弱々しい生き物に触れるようにコーヒーカップを両手で包んだ。
“あの人”がさっきまで触れていたカップ。
そっと顔を近づけるとコーヒーの芳ばしい香りが鼻先に触れた。
目を閉じカップのふちにそっと唇を押し当てる。
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