美魔女陽子(5)

 他の女のところへ行って帰ってこない旦那への当てつけか、それともその寂しさを埋める代償か。


 偽物の感情をちらつかせ、空っぽの会話を交わすここは自分にぴったりの場所だ。





「好きだよ」




 弦楽器の低音のような声が降ってくる。


 



 頬を一筋の涙が伝った。



 


 陽子はすがりたいのかも知れない。


 空っぽは空っぽじゃないんだと、偽りは真実を隠しているだけなのだと。




 賢一の中に自分を探すかのように陽子はこのBarに足を運ぶ。


「わたし、ほんとうにケンちゃんのことが好きよ」




 好きよ、の声が震えて擦れた。




 雨の降る音が聞こえる気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る