美魔女陽子(4)


「ほら、だから今日の陽子さんはそんな感じだと言ったよね」


 ふいに賢一に声をかけられ、頬杖を解く。


「なによ、そんな感じって」


「寂しそうってことだよ」


 賢一は時々すっと陽子の心の奥まで手を差し込んでくる。


 陽子は湧き上がってくる想いを押し殺そうとする。


 でもその声は陽子の躯の奥から手を伸ばし陽子を捕まえようとする。



『綺麗になったわたしを見て、わたしをもっと見て、消えてしまわないようにわたしを見て』




 絞り出すように声を出す。



「べつに寂しくなんてないわよ」



 残ったカクテルを一気に飲み干す。



「ふーん、じゃあ、恋しい、かな」


 もう一杯いくでしょ、と賢一はシェイカーを手に取る。


 意味ありげな期待だけ持たせ軽やかに賢一は遠くへ行ってしまった。


 陽子は最近の女たちのように仕事や人生の生き甲斐となる目標などを持ったことがない。


 恋をし愛し愛されることだけが陽子のすべてだった。




「わたしね」



 グラスのチェリーをつまみ上げ小さく振る。


「恋が恋しいの」


 自分の世界が一人の男で回っていた時間が恋しい。




「ねえ、ケンちゃん」


 目の前にいる賢一をどこまで本気で好きなのか自分でもよく分からない。




「ケンちゃんはわたしのこと好き?」


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