美魔女陽子(3)


「ねえ、三十過ぎて童貞の男ってどう思う?」


「どうって?」


「知り合いで童貞男を好きになっちゃった子がいるのよ。女を口説くことができない男なんて、わたしはまっぴらごめんだわ」


 賢一がタバコに火をつけるのを見て、わたしも一本頂戴、と陽子は手を伸ばす。


 新しいタバコを取り出そうとうする賢一の手を遮る。


「今吸っているのを頂戴」


 賢一は微かに口元だけで笑うと、加えたタバコを陽子の口に加えさせた。


 メンソールの煙をゆっくりと肺に入れる。


「陽子さんは家では吸わないんだっけ?」


「ここでこうやってケンちゃんにもらって吸うのがいいのよ」


 結婚してからタバコを止めた。


 タバコの煙はゆるりとbar全体に流れていく。



 結婚してからやめたものはたくさんある。


 朝まで友だちと長電話したり、一日中ベッドの中で過ごしたり、ファッション誌の占いページに一喜一憂したり。




 そして、恋することをやめた。




 陽子には子どもができなかった。


 それに関しては特別自分が不幸だとは思っておらず、旦那の経済力もあるが、スーパーの特売品やバーゲンとは無縁で毎日自分磨きに忙しい。


 今の美しさを保つのは旦那へのプライドでもあった。



 それと同時に今の陽子にはそれしか残っていなかった。 



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