アラサー美穂(3)
「昔と比べて今はどんな会社もいつどうなるか分かりませんからね、自分は自分で守らないと」
片桐らしい答えだと思った。
ヨガ友の陽子は片桐のことを堅物くんと面白がって呼ぶ。
実際社内でも同じように呼ぶ人が何人かいた。
いつも皺一つないスーツに身を包みデスクに座る片桐を、もしかしたら童貞じゃないかと噂する男性社員もいた。
電車のドアが開き、降りた人のかわりに雨の匂いをまとった空気が入ってくる。
美穂が降りる駅まであと三駅。
陽子の言葉を思い出す。
そんな草食童貞男、とっとと捕獲して食べちゃいなさないよ。
ま、わたしの場合男は絶対肉食じゃなきゃ嫌だけどね。
なんとなく片桐の股間に視線が流れそうになるのを慌てて引き戻す。
童貞がなによ、陽子さんの好きな女たらしのバーテンダーよりよっぽどマシ。
女一人でやってくる客を片っ端から食べまくるような男のどこがいいのか美穂にはまったく理解できない。
片桐がそんな男でなくて本当に良かったと思う。
まあ、そうだったら好きになってはいないだろうが。
美穂がまだ眼鏡をかけていなかった頃、自分が女であると思い知らされたのは、生理が始まったときでも、胸が膨らんできた時でもなかった。
それは自分を見る男たちの瞳の奥にぬめりとした男の性を見つけたときだった。
ひどく傷ついた。
視線だけで躯を汚されたような、侮辱されたように感じた。
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