アラサー美穂(1)
雨雫が這うように窓の表面を流れていく。
電車が揺れた。
その手が軽く隣の片桐の肘に触れる。
美穂は体を固くした。
「篠崎さん、ぼく達今月の目標達成までもう少しですね」
正面を見据える片桐が満面の笑みを浮かべているのが横顔からも分かった。
今しがた二人は四百万円の?身マシーンを関東に十数店舗展開しているエステサロンの一店舗に売ったばかりだった。
片桐は続ける。
「今回の青山店で一気にエルセーヌ全店に入ってくれないかな」
電車がさっきより激しく揺れ美穂の腰が片桐の太もも辺りに当たる。
片桐の肘に触れた手と太ももの体温を感じた腰が熱を帯び小さく脈打つ。
「篠崎さんとだったらできそうな気がします」
雨の窓越しに目が合うと片桐は美穂に微笑みかける。
男らしい鋭い一重瞼だがよく見ると奥二重で、笑うときれいな二重線がくっきり見え少年の顔になる。
すました美人が笑うとえくぼができるとか、八重歯が見えてそのギャップが可愛いとかと同じ部類のそれを片桐は持っている。
このギャップにときめきを覚えてはや半年。
美穂と片桐はただの同期の仕事仲間でしかなかった。
海外の美容機器を専門に取り扱う商社に勤める二人の会社は男女一組で営業に回る。
そのせいか社内恋愛率はかなり高く会社もそれを禁止していなかった。
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