第9話 親は子に似る、そんな言葉がよく似合う

「そういやシモナ、来週射撃の大会あるんだってさ」

 シモナの部屋の中。

 暖房で手を暖めていたルトアがふと思い出したように呟く。

「また? いつもの所で?」キョトンとした顔で呟いたシモナの心境は恐らく参加したいという気持ちで殆どなのだろう。

 狩猟をしているシモナ達の身としては、射撃の大会は練習にもなるし、優勝すれば大きなトロフィーだって貰える。

 既にシモナの家にはその実績を証明する賞状やトロフィーが多く飾られていた。

 全て彼女が獲得したもの。若くしてシモナの腕前はプロ並みとも言われているほどでもある。

「で? 参加すんの?」

「そりゃもちろん」

「今回の優勝もシモナか……」

「あのーおふたりさん、なにはなしてんのか、がるあっとにはよくわかんないんですけど」

 もちろん、ガルアットも一緒にいる。今はシモナとルトアの二人しかいないので、普段の姿でシモナの膝に寝そべりながら二人の話を聞いていた。

 射撃の大会のことだ、と小さく呟いたシモナの言葉に「?」とはてなを浮かべるガルアットに、ルトアがさらに説明をする。

「うーんと……簡単に言えば、銃を持って的に当てて、点数を競う大会? であってるよな」

「そうそう。それでいて決勝戦までいって、一番点数の高かったやつが優勝的な」

「へぇー?」

「また疑問に満ちた回答の仕方だな……」

「まぁそんだけシモナの傍にいるんだったら、きっと凄い迫力だぞ?」

「マジか!」

「マジだ!」

 顔を合わせて笑い合う二人を見て、「仲良いなぁ……」と呆れたようにシモナは呟くも、なんだか微笑ましい光景ではあった。

「そう言えば、お母さんって動物好きだったっけ?」

「死ねるほど好きとかこの間言ってたわ」

「動物の為に死ねる人間なんてこの世にいるものなのか……?」

「お母さん」

「そうだった」

 ……何か考え事をしていたのか、シモナはそれ以上の回答をすることは無く、程なくしてガルアットの方を見た。

「なんね?」

「一か八か……お母さんに言ってみるか、こいつのこと」

 衝撃的な発言が口から飛び出たシモナの肩を掴み、「正気かシモナ」とルトアは口にする。

「いや動物の為に命捧げられるようなお母さんだったらこいつも可愛がってくれるだろ」

「シモナが壊れた! 明日は雨が降るぞ!!」

「それは、だめだ! はれに、しなきゃ!!」

「騒ぎすぎだお前ら」

 呆れ顔でシモナは言う。

 実際、母ははっきり言って変な人だし……。

 俺と同じで好奇心旺盛な性格をしてるから大丈夫でしょ、とシモナは半ば半分運に任せる形になった。

「いやでもよ、こんな見た事ない人外だぜ? お母さん口軽いから世間に漏らすんじゃね?」

「ほら行くぞガルアット」

「はーい」

「最近俺の扱い酷くない?」

 むんずとガルアットを両手で掴んで抱きかかえ、部屋を出る。

 一枚一枚が二重ガラスでできた窓の縁々には、綺麗な結晶を残した霜が降りている。

「……今日もしばれているな」

「は? しばれ……なんて?」

「いや、なんでもない。独り言」

「えぇ……それにしてもおかーさん、わかってくれるかね?」

「きっと大丈夫さ。私みたいな変人じみた性格してるんだから」

「なるほどぉ!」

 話しながらシモナが片手で居間の扉を開けようとした時。

「……あら?」

 丁度、母とばったり会った。

 タイミングが悪い。今のシモナはきっと、キョトンとした顔をしているのだろう。

「……シモナ、その子は?」

「拾った」

 サラッと答えた。

 幼い頃からシモナが何かを拾ってくることなど慣れっこだった。というか、出かけたら必ず何かを拾ってくるシモナを褒めている母も母なのだが。

「あらそう? 可愛いわねぇ〜、お母さんこの子死ぬまで飼いたい! シモナはどう?」

 あ、やっぱり予想通りだった。

 心の底から笑えてくるようなその回答を聞いたシモナは「……まぁ、拾ってきた張本人ですから……飼いたい」と一言。

「決まりね! お父さんに言ってくるわ!!」

 ルンルンとしながら居間の扉を閉めて、母は階段を登って行った。

 それを見届けたシモナは「良かったな、ここで暮らせそうだぞ」と小声でガルアットに言った。

「ほんまー?」

「ほんま」

「おぉー!」

 きっと父のことだ、「カトリーナに任せる」なんて言うんだろうなぁ。

 そんなことを思っていた数秒後、階段を静かに走り降りてきた母が「私に任せるって! 良かったわね! お名前なんて言うのー?」とガルアットを抱き上げて顔を近づける。

「あ、そいつ喋るよ」

「がるあっとー!」

「ガルアット? でいいのかしら、シモナ?」

「うん、大丈夫。あと言うと、そいつ日本語しか分からないらしいから、通訳は私に任せて気軽に話しかけてどうぞ」

「そうなのね! 分かった!」

 笑顔でガルアットをギューッと抱きしめて「よろしくねガルアットちゃん!」と明るい声で話しかけていた。

「なんて?」

「よろしくだってよ」

「よろしくー!」

「ガルアットちゃん……んふふ……」

 これでフードローブに化ける必要が無くなって良かったなガルアット……なんて思いながら、シモナは未だに抱きしめられているガルアットを見て、少々笑っていた。

 …………だが、幸せな日々も、そう長くは持ちそうにない。

 ガルアットは感じていたのだろう。

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