最終話:高校生がヤンデレに付きまとわれてみた

門倉雪人は寝不足だった。


今日も今日とて父親の匂いをくんかくんかしまくっている母親を尻目に、学生には明らかに不必要な早い時間に家を出た雪人は、しかしそうする必要に駆られていた。


ヤンデレな妹が起きる前に、家を出なくてはならないからだ。


ヤンデレな妻に愛されすぎて眠れない父親には同情するが、なんで自分まで同じ目に合わなければならないのか、これが雪人には分からなかった。


自分はヤンデレに好かれる性質を父から遺伝し、妹はヤンデレになる性質を母から遺伝したということなのだと理解はできるが、到底納得などできるものではなかった。


そんな雪人にとって、誰よりも早く学校の教室に入り、一人で過ごすひとときだけが救われる時間だったのだが。


「お兄様、おはようございます」


雪人は神を呪った。


双子の妹が、自分よりも早く、学校の教室で自分を待ち構えていたから。


「親父がおふくろと結婚したのって、つまりそういうことなんだろうなあ」


どうあがいても、ロックオンされたらヤンデレからは逃げられないのだ。


なら、せめて一矢報いるためにノーガードで殴りかかる以外の選択肢が残っているだろうか。いや、ない。


奇しくも15年前の父親と同じ選択肢を選び取った雪人は、妹の胸を鷲掴みにした。


「ヤケクソってやつだろ、アホ親父」


その場にいない父親に語り掛けながら、雪人は妹を抱きしめた。




この後教員に見つかり、ハイテンションで誤解を振りまく妹に頭を抱えながら、雪人は教員にどう言い訳したものか知恵を絞る羽目になるのだった。




「で、なんで妹に抱きついたりしたんだよ」


 あっという間に広がった噂をネタに面白半分といった顔でからかってくるクラスメイトに、雪人は決めていた答えを返した。


「寝ぼけてた」


「寝不足か?」


「ああ。母さんが父さんを好きすぎて俺の睡眠時間がマッハなんだわ」


クラスメイトにぼやきながら、今頃寂しさで母親は父親の職場に鬼電してるんだろうな、などと思いをはせる雪人の奮闘は、また別のお話。


社畜がヤンデレに付きまとわれてみた:完

新連載:母さんが父さんを好きすぎて俺の睡眠時間がマッハ:6月20日投稿しますたhttps://kakuyomu.jp/works/1177354054900261656

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社畜がヤンデレに付きまとわれてみた 七篠透 @7shino10ru

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