第12話:立場その他もろもろが真逆
しばらくの沈黙ののち、スト子父は震える声で尋ねてきた。
「まさか、美雪は君にも、その……」
俺の態度が”何かおかしい”ことにようやく気付いたらしい。スト子父があまりにも言いにくそうに言葉を濁したので、俺は食い気味に返した。
「俺の匂いに惚れたとか言って結構えげつないストーカー行為を働いてきてますが」
「……」
ぐうの音も出ないらしいスト子父に、俺はついまくし立てた。
「抱け抱けと迫って来るので未婚の乙女がそのようにはしたないことを連呼するなと諭したらこの状況になりました。端的に言って、本末転倒です」
無論この場にいる以上、娶る覚悟はしているが、この状況になったこと自体が不本意なものである、ということだけは言っておきたい、という子供じみた感情で、俺はおそらく、絶対に口にしてはならない類のことを口に昇らせた。
しばらく煩悶するように沈黙していたスト子父は、苦しそうに吐き出した。
「そうか。浮かれてしまって、君の気持ちを汲めなかったこと、済まないと思う」
最初にスト子父の口から出たのは、謝罪。だが。
スト子父も何かの覚悟を決めたような顔でまくし立て始めた。
「だが、娘に一度だけチャンスをやってはくれないか。どんな理由でも娘は君を愛し、どんないきさつでも娘は君と伴侶になることを望んでいる」
そこまで言ったスト子父は、ちゃぶ台を横にどけて正座の姿勢から頭を下げた。
畳に手をつき、深く頭を下げる姿勢は土下座そのものだ。
「親として、もうこれが最後かもしれない、娘が人並みの幸せを掴むチャンスをむざむざ見逃すことはできない。一度でいい。娘に、君の伴侶になるチャンスをやってはくれないか。高校卒業までの間でいい。その間にどうしても娘を愛せないなら私も諦める。だから頼む! この通り!」
実の親にここまで言われるスト子は一体、どれほどの変態なのだろうか。
スト子父の必死さに、俺はかえって不安になった。
「もともとそのつもりですから、顔を上げてください」
「本当か門倉君! ありがとう! ありがとう……うぅっ……」
泣き出してしまったスト子父は俺の手を握り、何度も上下に揺らした。
土下座するのも感激して泣くのも、世間一般では俺の立場の側の人間だと思うのだが、それだけスト子はご家族にも迷惑をかけているということか。
「ところで、孫の顔はいつ見せてもらえるのかな?」
あ、やっぱこいつスト子の親だわ。
俺は、とんでもないところに来てしまったことを今更はっきりと理解した。
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