第9話:息子のエロ本を見つけた母親ってどんな気分なんだろう

「ところで九郎さん」


 急に真面目な口調でスト子が言ったのは、俺が食事を終えて合掌した時だった。

 

「変態キャラに飽きたか?」


「変態なのはキャラづけじゃなくて素です!」


 素なのかよ……というか変態の自覚はあったんだな……。


「で、何?」


「あれは何ですか?」


 スト子は部屋の隅を指さした。


「なんで俺のエロ本コレクションが積んであるんだ? 段ボールに入れて押し入れにしまっていたはずだが」


 まあスト子が俺の留守中に大人しくしているなどとは思っていなかったし、この程度で済むなら僥倖というものだろう。

 最悪捨てられたりしていてもおかしくないのだ。


「勝手に部屋をお掃除したことは謝ります! でもなんで私というものがありながらあんなものを持っておく必要があるんですか!」


「必要だろ」


 即答すると、スト子の声が一段高くなった。


「なんでですか! むらむらしたら私を呼べばいいじゃないですか!」


 呼んでどうしろというのだろう。襲えば確実に犯罪になる年齢としか思えないが。

 見抜きでも頼めばいいのだろうか。

 ……絶対嫌だ。


「絶対嫌だ」


「何が嫌なんですか!」


 こうまで強弁するとは、スト子には露出狂のケもあるらしい。が。

 俺がそれを受け入れる理由はない。

 何より。


「ストーカーで見抜きするとか惨めにもほどがあるだろ」


 スト子はちゃぶ台を両こぶしで強打した。


「なんでわざわざ呼び出して見抜きなんですか! そこは襲ってくださいよ!」


 どうやらスト子は俺を犯罪者にしたかったらしい。

 それとも、犯罪を犯してまでそうしたいと思わせるほど自分が魅力的だと本気で思い込んでいるナルシストなのだろうか。


「ストーカーなのは否定しないんだな」


「私だって多少は自分を客観視しますよ!」


 胸を張るスト子に、俺は頭を抱えて溜息をつくしかなかった。


「じゃあ俺にどう思われてるかも客観視してくれよ……」


「恋は盲目ですから」


 さらに誇らしげに、ふんす、と鼻を鳴らすスト子のように生きられたら、さぞ楽しいんだろうなと、俺は少しだけスト子をうらやましく思った。


「都合のいい脳みそしてるなお前……」


 こういう手合いは相手をしないに限る、のだが。


「って誤魔化されませんからね! なんで私を襲わずにこんなものに頼っているんですか!」


 アホの子ではあるが、譲れないものは譲れないと強弁するスト子に、俺も真っ向から斬りかかる必要があるのかもしれない。

 そんなことを思った。


「じゃあ、襲ってもいいのかよ?」


 売り言葉に買い言葉、という奴か。

 俺は、自分が何を言っているのかもう分っていなかった。

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