第5話:不健康頂上決戦
ほかほかとうまそうな湯気をたてるカップ麺を前に合掌し、割り箸を割る。
「いただき……なんだよ」
箸をカップ麺に突っ込もうとした俺の右手を掴んでいるのは言わずと知れた魔法少女プリティスト子。
「なんだと言われたら、嫉妬って答えるしかないです」
「お前は何を言ってるんだ」
嫉妬という感情の意味を思い返してみるが、それがカップ麺を食うこととどう繋がるのかがさっぱりわからない。
「私だって今日まで九郎さんに美味しいものを食べてもらおうとお母さんに料理教えてもらって、『紗奈にも好きなひとができたのね~』とか冷やかされながら恥ずかしさに耐えて一生懸命練習してきたのに! カップ麺に負けるなんて悔しいです!」
スト子、まさかのカップ麺に嫉妬。
スト子の名前が紗奈なのか遥香なのか、という疑問は棚上げしておく。
本名がなんだろうが俺にとってのこいつはスト子だ。それ以上でもそれ以下でもない。
別段女にもてるわけでもないので女の子の手料理というシチュエーションには憧れもあるのだが、こんな俺にだって食うものを選ぶ権利くらいあると信じたい。
「じゃあ聞くが、その買い物袋の中身を言ってみろ」
「食パン、ブロッコリー、アスパラガス、マッシュルーム、ブロックのベーコン、にんにく、鷹の爪とバターと、バターとバター、これもバター、こっちの無塩バターがデザート用で、風味づけのオリーブオイルです」
スト子が袋から出して並べていく食材を覆い尽くす、バーベキュー⚪ットボーイズも驚くこと請け合いのバターの山。鍋いっぱいのバターでアヒージョでも作る気なのだろうか。アヒージョなら風味づけといわずオリーブオイル100%でつくって欲しいところだが。
いや、問題はそっちじゃない。
こいつの家族はデザートに無塩バターかじるのか?先代⚪楽師匠ですらかじってたのはようかんだぞ。
いや、それも問題じゃない。いかんいかん。
ストレスがたまると思考が散漫になるな。
「俺を高脂血症で殺す気だろお前」
「違います! 九郎さんは毎朝ほんのり前の日に食べたものの匂いがするからバターの香りを」
それが理由か。ならば穏便に断ることはもはや不可能。
そう断じた俺は、苦渋の決断を下した。
単純に逆ギレして断るのは簡単だが、そんな勝利は天地神明が許そうとも門倉九郎の門倉九郎たる部分が断じて絶対に許さない。
カップ麺の生産工場のひとや麺とか具の材料を生産してくれてる農家のみなさんごめんなさい。俺は今から神をも恐れぬ外道の行いに手を染めます。
「いくつか条件がある」
食べかけというか箸をつける前のカップ麺を流しの三角コーナーに捨てながら、俺は呻いた。それは恫喝でも威圧でもなく、ただ、食い物を粗末にしたという慙愧ゆえに。
「処女あげればいいですか?」
なんでその発想が最初に出るのか戦慄しながら、俺は努めて動揺を圧し殺し告げた。
1、個別の皿に盛らず大皿を使うこと
2、作るならスト子も食うこと
3、俺しか食わない品があってはならない
これなら変なものは盛られないだろう。バターたっぷりにしようにもこいつは女子高生。自分の体重が気になってできないはずだ。さあスト子、盛れるものなら盛ってみろ!
「何そのご褒美…まるで九郎さんと夫婦みたい…( ゚д゚)ハッ! これは遠回しな求婚!」
orz
甘かった。蜂蜜よりも甘かった。
脳味噌がお花畑でできている人間は最強。
挫折を味わう俺をよそに、スト子は鼻唄混じりに…服を脱ぎ始めた。
…は?
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