第2話:俺の気持ち、分かってくれた?
名前も知らない女子高生に匂いを嗅がれるという気の狂った日常を受け入れて二週間。
あいつも遠慮がなくなり抱きついて俺に顔を埋めて匂いを嗅いでくるのが当たり前になった頃だ。俺ももう、慣れのせいでそれに違和感を覚えなくなっていた。
珍しく、誰にも抱きつかれない日があった。いや、本来それが普通なんだが。
あいつは寝坊でもしたんだろうか。そんなことを考えていると、あいつと目があった。
いたのか。今さら遠慮とはらしくもない。
最初はそう思ったが、あいつの目はなにかを訴えていた。そしてそれはすぐわかった。
痴漢されてやんの。ざまあ見やがれ。
まあ、知らない顔でもないし助けてやるか。
俺は弱々しく此方に伸ばされていたあいつの手を掴み、力任せに引き寄せた。
俺に抱き止められたあいつはそのまま必死にしがみついてきた。指にこもる力は明らかに過剰で、震えていた。相当怖かったようだ。
…俺の気持ちが分かったと信じてるぞ。
「よしよし、怖かったな。安心していいぞ。もう大丈夫だからな」
誰なのかわからない痴漢を俺が捕まえるのは無理だ。だから「こいつ痴漢されてました」と回りに聞こえよがしに言う。
それで十分だろ。
次の駅で、40くらいのオッサンが一人全力疾走で降りていった。普通なら「すみません」とか「通してください」とか「おります」とか言うもんだがそれもなく、回りの人を掻き分けて、むしろはねのけてすごい勢いで猛ダッシュしていった。
余程急いでたんだろうなあ(すっとぼけ)
そんなトラブルはあったもののつつがなくいつも通りの駅で降りた俺の袖を、誰かが後ろから弱々しく掴んだ。誰かなんて確認するまでもないけどな。
「あ、あの…」
「とりあえず顔拭けよ」
俺は何かを言いかけるあいつにハンカチを渡した。無精のせいでずっとポケットにいれっぱなしになっていたくしゃくしゃのハンカチだが、匂い的にこいつにはご褒美だろう。(無精がばれる)
案の定、あいつは俺のハンカチを口元に当てて深呼吸しだした。
くんかくんかすーはーすーはーじゅる。
おい、今匂いを嗅ぐだけなら絶対にしない音がしたのは俺の気のせいか?
「落ち着きます」
「そら良かったな」
俺は全然よくないけどな。むしろ音のことが気になって微塵も落ち着かねえ。
とはいえ。
「お前さんはそっちの方が似合いだよ」
こいつは変態行為されて震えてる普通の女の子じゃなくて、容赦なく俺に変態行為を仕掛ける変態でいてくれた方がしっくり来る。
…しっくり来る?
何を考えてるんだ俺は。
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