第6話 役に立てないのはなかなか辛い
脇道の出来事から一夜挟んで次の日、俺達は草原エリアの次にモンスターのレベルが高い、岩石エリアに来ていた。
どうやら、神技の使えない俺に、気を使ってくれたらしい。一応、回復役的な立場になったが、うっかり敵の攻撃に当たらないとも限らないだろうということから、レベルの低い場所を選んだらしい。
「このエリアはゴツゴツした言わばかりのエリアで、岩の隙間とかに住んでるモンスターが多いな。ここら辺のモンスターは縄張り意識が強くて、自分の縄張りに入ったものは、モンスターでも人間でも、構わず攻撃してくる」
「そ、それは恐ろしい……」
「怖がることは無いよ。攻撃してくると言っても、せいぜいデコピン程度の攻撃力しかないからね」
ゼノが笑いながら言う。
(それ、地味に痛いやつ……)
「大丈夫、ノア……レオのことは、私たちがちゃんと守るから」
「あ、ありがと……」
ノエルが普段よりたくましく見える。防具を身につけているからだろうか。
それにしても、3人ともゲームの世界でしか見たことの無いような武器を持っている。
ガリュは大きな盾と斧のようなものを持っているし、ゼノは片手剣を腰にさしている。
ノエルはというと、分厚い本を抱えている。
神技というものがあるのだから、モンスター討伐と聞いた時は、てっきり全部魔法的に倒してしまうのかと思っていたが、意外と物理なんだな。
先程から数体のモンスターが3人の前に現れるが、ガリュは盾で攻撃を跳ね返しながら斧でトドメを指すし、ゼノは軽いステップで敵を翻弄して剣で削っていく。
ノエルに限っては、これは神技を使っているのだろう。手に持っていた本を開いて、呪文のようなものを唱えては雷を落としたり、炎を飛ばしたりしている。
ぶっちゃけ、ほぼ魔法だ。
そんな3人の後ろを少し遅れてついていく俺には、回復役の務めを果たす機会さえない。
彼ら相手にモンスターが弱すぎて、ダメージをほとんど受けないのだ。
『自分のいる意味とは?』
『俺はお荷物なんじゃないか?』
何度自分に問いかけたことか……。
「レオ」
名前を呼ばれて我に返る。
「ここの初めて見る洞窟に入ろうって話してたんだ。ぼーっとしてたみたいだが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫!ちょっと考え事を……」
「……そうか、あまり思い詰めるのよくないと思うぞ?出来ることをしてくれるだけでいいさ」
「……うん」
俺は顔に出やすいのか、すっかり見透かされていたらしい。
俺はひとつ、ため息をついて3人とともに洞窟へと踏み込んだ。
洞窟でも先ほどと同様、現れる敵全てがあっさりと倒されていく。
俺の仕事はゼロ。
「できることを……か。出来ることすらわからないんだよ……」
心の疲れからか、肩が重い。
俺は溜息をつきながら、洞窟の天井を見上げた。
「…………え?」
暗くてよく見えないが、天井で何かが動いている。それはシューシューと気味の悪い息遣いをしながら、8つの赤い目をこちらに向けている。
「え……あ……」
その正体がわかった瞬間、全身が冷たくなるのを感じた。
そして俺は、らしくもない叫び声を上げていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「どうした!?」
俺は気がつくと、目の前にいたガリュに抱きついていた。
「ガリュ……クモ……クモが……」
「クモ?」
ガリュは首をかしげた後、天井を見上げる。
「ああ、ダグラーのことか」
「……ダグラー?」
「あの8つの目を持つモンスターはダグラーって言うんだよ。奴らの主食は昆虫だから、俺たちに危害は加えてこないはずだ」
「そ、そう……なのか?」
ガリュが大きく頷く。
「よ、よかった……」
「レオ、虫苦手なのか?」
ゼノに聞かれて、ふと思い出す。
「いや……苦手じゃなかった、はず」
「ってことは、ノアに影響されてるな」
「影響?」
「ノアは虫モンスターが大嫌いなんだ。ノアの体に入ってるから、正確に影響したんじゃないかな?」
そんなこともあるのか、と自然と口から「へぇ……」という声が漏れる。
「それで、レオ?」
「なんだ?ガリュ」
「えっと……そろそろ、離れてもらえないか?」
「え?あ……」
驚きすぎて、ずっと抱きついたままだった。
「ご、ごめん!」
俺は慌てて離れる。
顔が熱く感じたのはどうしてだろう。
暗くてよく見えなかったが、ガリュの顔も、少し赤くなってるように見えた。
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