第5話 使えない力
俺たち4人は誰かを巻き込まないよう、草原エリアにやってきた。
「じゃあ、やってみてくれ」
「ああ!」
俺はガリュ達がやっていたように、右手を前に差し出し、唱える。
「燈!」
だが、その手のひらの上には何も現れない。
「やっぱりか……」
ガリュが残念そうに肩を落とす。
「ご、ごめん」
俺がなんだか申し訳なくなって謝ると、ゼノは俺の肩を叩いて言った。
「レオのせいじゃないよ。人の中身が変わるような不思議なことが起きてるんだ、ガリュ技が使えなくなってるなんてことがあっても不思議じゃない」
「ありがとう……」
ゼノの優しさに少し心が救われた感じがしたが、不本意といえどもノアの体を奪った身である。彼らの戦力やノア自身を奪ったことに変わりはない。
「落ち込まないで、レオ。こうなったら、なるべく早く、元の世界に変える方法を探そ?」
「あぁ、そうだ。ノアの分も俺達が頑張って戦えばいいだけの話だ。レオが元の世界に帰れば、ノアも戻ってくるはずだろうしな」
ノエルとガリュもなんとか励ましてくれる。
「俺も、できることを探すよ……」
口ではそう言っても、なんとも言えない罪悪感で潰されそうだった。
「ちょうど今から街に戻れば飯時だろう。昼飯は食堂街のレストランででも済ませるか」
「それいいね!そうしよう」
「私も賛成!久しぶりにあそこのご飯、食べたかったとこなの!」
「じゃあ決定だな!ノア……レオはもそれでいいか?」
「あ、ああ、賛成だ」
そうして、俺達は中央広場を抜けて、食堂街に向かった。
食堂街に入ったあたり、3人の後ろを少し遅れて歩いていると、突然腕を掴まれて、脇道に引きずり込まれた。
「っ!?」
口を手で塞がれてしまい、助けを呼ぼうとした声もかき消されてしまった。
「や、やめ……っ!!」
俺が言い終わる前に、俺の体は硬い壁に叩きつけられた。
「暴れるな」
その声の主の姿を見た途端、俺の体は硬直した。真っ黒いローブに身を包み、顔が全く見えないほど、影におおわれている。右足元には小さな黒い何かがまとわりついていて、時折、なんの動物かわからない鳴き声を発する。
「お、おれ……私をどうするつもり!」
なぜか、男だということが、あの3人以外にバレてはいけないような気がして慌てて言い直した。
「まあ、そんな目をするな。お前にひとつ、伝えることがあるだけだ」
低く重々しい声が直接脳に語りかけているかのように頭に響いてくる。
「その前に一つ質問だ」
「な、なに?」
こんな話をしている最中も、首をものすごい力で掴まれており、息をするのもやっとの状態だ。
「お前は、ノア……ノア・クリチアルか?」
クリチアル、それは恐らくノアの苗字的なものだろう。
「そ…うよ、それが…な、にか?」
黒いローブはくくっ、と気味の悪い笑い声を出す。そして、首を絞めていた手を離した。
「うっ…はあ……はあ……」
手が離れると同時に、崩れるように座り込んだ俺を、黒いローブは見下ろす。
「いいことをおしえてやろう」
「はあ…はあ…、い、いこと……?」
「貴様の神技の発動ができないわけを教えてやる。お前は間違えているんだ、神技の本質を」
「な、なんだよ、神技の本質って……」
「それはな……」
黒いローブの言葉を遮って、いくつかの声が聞こえてきた。
「ノア!ノア!」
「ちがうだろ!今はレオだ!レオ!」
「どっちでよべばいいのかわかんねぇよぉ!ノア!レオ!どこにいるんだ!」
ガリュたちの声だ。彼らのものと思える足音がだんだんと近づいてくる。
「これだけは覚えておけ。神は我らに力を与えた、それは人々を強くするためでも、幸せにするためでもない。神が我々に力を与えたのは、『神が愉しむため』だ」
黒いローブはそこまで言うと、空気のようにどこかへ消えた。
それと同時にガリュ達が脇道にいる俺を見つけ、駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫か?」
俺の首についている圧迫跡を見つけると、ガリュの顔があからさまに青ざめた。
「だ、だれにやられた」
その質問に、俺は答えられなかった。
答えられないのではない、覚えていないのだ。
何者かに首を絞められ、何かを話されたことは覚えている。だが、奴の顔も、姿も、まるで真っ黒に塗りつぶされたように記憶から消えていた。
だが、脳裏をよぎるやつの言葉、
「神が我々に力を与えたのは、『神が愉しむため』だ」
あの言葉だけが、俺の記憶に焼き付いていた。
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