第4話 力は魂に宿る

次の日の朝、揺れるカーテンの隙間から差し込む光で目を覚ました。

「起きた?」

寝ぼけ眼を擦りながら体を起こすと、視界に着替え途中のノエルが映った。

「おはよう」

「えっと、おはよ……」

ノエルが笑顔で挨拶してくれるが、俺の方はしどろもどろという言葉がぴったりと言った状態である。

「なんでそんな慌ててるの?」

「いや、それは……その……」

俺が答え方に迷っていると、ノエルは小悪魔的な笑みを浮かべながら、ベッドに座る俺の顔にぐいっと詰め寄る。

「ふふっ、わかった」

「え?」

「私の下着姿、見ちゃったからだ?」

ノエルがそう言った瞬間、俺は自分の顔が熱くなるのがわかった。

「そ、それは…その…」

「真っ赤になっちゃって、かわいい♡」

よく見ると、ノエルの頬もほんの少し、赤くなっていた。

(え、まさか、このふたりってそういう関係?)

俺の頭の中をゆりゆりしい光景が駆け巡る。


「入るぞ〜」

その声と同時にドアが開かれる。

「ちょ、ちょっと、まだ着替え中!入ってこないでよぉ!」

「朝から女同士でいちゃついて、どの口が言ってるんだ?」

「いつもノアとノエルはイチャつくもんなぁ、ほんと仲いいよな」

「いや、俺、ノアじゃないんだけど……」

俺がそういうと、ゼノとガリュは目を合わせてははっ、と笑った。

「そんなの分かってるさ。でも、ノアの体に入ったんだし、もしかしたら、ノアの性格に影響されてるかもしれないだろ?」

「ノアの性格?」

「そうだな、例えば……」

ガリュは顎に手をやって考える。

「百合が少し入ってるとこ、とかな?」

「いや、俺は元々男だから、女が好きなことに問題は無いんだが……」

「ま、そうだよな。影響ないならそれに越したことはないが……」

ガリュとゼノは目配せをして頷き合う。

「ど、どうしたんだ?」

「いや、どうやってここに来たかもわからないレオが、すぐに元の世界に帰るなんて出来るはずがないんだよ」

まあ、それはそうだろう。レオも直ぐに帰れないことは薄々気づいていた。

「となると、しばらくはここにいることになる。そこでひとつ、問題があるんだが」

「問題って、なんだ?」

「それが、多分、話すより見てもらう方が早いと思う」

そう言ってガリュは掌を天井に向けて前に差し出した。

ともしび

彼がそう口にした途端、彼の手のひらの上に緑色の炎が現れた。

「え!?ど、どんな手品だ?」

「手品なんかじゃないぞ。これは神技じんぎだ」

「じ、じんぎ?」

「ああ、そうだ。ゼノ、ノエル」

「おう」「うん」

2人は名前が呼ばれると頷いて、ガリュと同じように手を前に差し出す。

「「燈」」

2人がそう唱えると、ゼノの手のひらの上に蒼の炎が、ノエルには赤の炎が現れた。

「この世界では最王さいおうと呼ばれる、神の中でのトップが存在したらしいんだが、最王様が何らかの理由で自らのパワーを世界中に散りばめたことによって、世界中の人々が特殊な力を使うことができるようになったんだ」

「それが神技ってやつか」

ガリュ、ゼノ、ノエルの3人が同時に頷く。

「それで、問題ってのはなんなんだ?」

異世界に転移している時点でこれ以上に驚くことはそうそうない。

3人の言う神技とやらは、魔法のようなものと考えていいだろう。

「神技は魂に宿る、と言われているんだ。生まれた瞬間に最王様がさずけて下さるものだと」

ここまで聞けば、魔法や神技が存在しない世界に住んでいた俺にでもわかる。

「っまり、生まれがこの世界じゃない俺に、神技が使えない可能性がある、と」

「その通りだ」

今の俺は体は確かにノアのものだ。だが、魂が俺のものである以上、俺の魂に神技が宿っていることはまず無い。

つまり、ノアが使えていた力が使えない可能性がある。

「ノアは俺たちの中でもずば抜けた戦闘力を持っていた。その力が欠けたとなれば、俺たちの戦力は壊滅状態だ」

「そう、誰もが使うことの出来る神技だが、その力は人によって違うし、その力だって違っている。ノアは選ばれし七神に次いで最強とよばれるレベルだったんだ」

「選ばれし七神?」

ゲームの中でしか聞いたことの無いようなワードに俺は首を傾げる。

「さっき言ったように、神技は人によって威力も、種類も違ってくる。中には神を具現化することが出来るほど、能力の高いものもいるんだ。彼らは選ばれし七神と呼ばれている」

「つまり、最強の7人……」

「そういうことだ」

神を具現化するほどの力なんて、想像もつかないが、よっぽど強いんだろう。

「それでだ、レオにはまず、神技を使えるのかどうかを確認させてもらいたい」

「わかった」

俺は力強く頷く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る