第2話 ここはきっと異世界

「おい、大丈夫か?」

男の声で意識が戻った。

目を開けると、目の前に四十代後半くらいの大男が俺に向かって紙袋を差し出していた。

「どうした、そんな足元に突然ツチノンが現れたみたいな顔して」

「つ、ツチノン?」

「お前、それでもほんとにこの街の住人か?」

「こ、この街って……」

周りを見渡してみるが、こんな場所、見覚えがない。

目の前の大男にも見覚えはないし、ツチノンとやらも知らない。

(そもそも俺はさっきまで脇道に……)

そこでふと、おばあさんの言っていたことを思い出した。

「異世界……」

「いせかい?あんた、体調でも悪いのか?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「なら、さっさと商品を受け取って、代金を払いな」

「そ、そうだな。えっと、いくらだっけ」

「えっと、それとそれ、2つで22フォルドだ」

「ふぉ、ふぉるど?」

「あんた、ほんとに大丈夫か?フォルドは万国共通の通貨じゃないか」

「そ、そうだったな。あはは、これで足りるか?」

これ以上怪しまれて、通報でもされたら困る。なんとか話を合わせて店の前から足早に立ち去る。

「ここは、一体どこなんだ」

「おい、どこに行くんだよ」

突然、肩を掴まれ、驚いて振り返る。

そこには緑の髪をした男が立っていた。

(背、たっか……)

俺でも178くらいはある。だが、目の前の男は頭一つ分以上に高い。

「人を待たせておいて、お前はいつもいつもふらふらと……」

「ご、ごめん……」

記憶にはないが、なぜか謝ってしまう。

「まあ、いいだろう。ノエルとゼノも向こうで待っている」

男はそう言って俺の手を掴んだ。

「え……」

ぐいっと引っ張られながら男についていく。

(ちょ、どーなってんだよ……)


「おい、ノア!遅いじゃないかぁ!」

「心配したよ〜!」

「ご、ごめんごめん」

恐らく、左の赤髪女がノエル、右の青髪男がゼノだろう、名前的に。

「お前、なんか変だな」

「たしかに、口調がいつもと違うかも……」

ゼノが俺の顔をまじまじと見つめ、それに乗っかるようにノエルも見つめてくる。

「い、いや、それが……って」

「ん?どうした?」

俺は今更、気づいた。

「ノアって、だれ?」

「「「は?!」」」

3人がいっせいに俺を見つめる。

それだけ見つめられても俺にノアという名前の思い当たる節はない。

「あ、あのさ……信じられないと思うけど」

俺はおばあさんに異世界から送られてきたことを3人に話した。


「つまり、あなたはノアじゃなくて、レオ……」

「つまり、お前のいた世界はここじゃなくて別の世界……」

「多分、そういうことだと思う」

俺もいまいち分かっていないわけだし。

「つまりだ、ノアの体に異世界から来たレオの魂が憑依したか入れ替わったかってことだよな!」

ゼノが自信満々に言う。

「え、憑依?入れ替わった?」

その瞬間、俺の思考回路がいつもより早く回転した感覚がした。

おばあさんの台詞、知らない場所、知らない人達、知らない名前、憑依……。

「ま、まさか……」

俺は近くにあった服屋らしき店の前にある鏡に自分の姿を映す。

「え、」

そこには全く知らない姿が映っていた。

腰ぐらいまである金髪、大きな瞳、整った顔立ちに細い体。

お世辞無しに美しいという言葉が当てはまる存在だと思う。

「いや、そんな場合じゃなくてさ……」

俺の思考回路はほぼショート状態だ。

「俺、女になってるんですけど!?」

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