我が神の名のもとに

プル・メープル

第1話 目覚め

『ねぇ、聞いてるの?ねぇってば!』

彼女が呼びかけるのも無視して、俺はただひたすらに、夕日を見つめていた。

『いいもんっ!君が見てくれないなら、私も君のことは見ないから』

そう言って彼女はぷいっとそっぽを向いた。

『悪かったよ、でも見てみろよ。夕日、綺麗だろ』

彼女はそっぽに向けた視線を、俺の指に向け、そして俺が指さす方へとうつした。

『すごく……きれい』

『だろ?目が離せなくなるくらい、綺麗だ』

『でも……』

彼女は俺の方を向いて、何かを呟いた。



「……もう、朝か」

彼は窓から差し込む光で目を覚ました。

カーテンがひらひらと揺れている。

今は春の初め頃、ポカポカとした陽気の混ざった風が体を温めてくれる。


制服に着替え、学校に行く準備を手に、一階のリビングに降りる。

両親はまだ寝ている。

リビングとダイニング、キッチンは繋がっており、食卓に座るとそこから妹の梨花りかが料理しているのが見える。

「おはよう、お兄ちゃん」

「おはよう」

数分後、さらに乗ったウィンナーと卵焼き、綺麗に焼きあがったトーストが運ばれてきた。

「ごめんね、いつも簡単なものしか作れなくて」

「朝はこれくらいがちょうどいいよ。俺こそ、いつも早起きさせちゃってごめんな」

「お兄ちゃんのためだもん!」

そう言って梨花はえへへと笑う。

15分弱で食事を済ませ、その他の準備をして玄関に向かう。

「お兄ちゃん、行ってらっしゃい!」

「行ってきます」

いつも通りの挨拶を済ませ、家を出る。

特に何も無く、いつも通りに学校に着く。

学校では友達と他愛ない話で笑ったり、授業で寝てしまったり、休み時間に遊んだり、そんな代わり映えのない日をすごした。


そして帰り道、途中まで同じ帰り道の友達と別れ、一人で歩いていた。

トラックの走る音が聞こえ、ふと前を向いた時、トラックの進行方向に立つ、猫の姿が見えた。

よく見てみると、猫は後ろ足を引きずっている。このままではきっとねられてしまう。

気がつくと、体は猫を抱き抱えていた。

トラックはもちろん、急には止まれない。

激しいブレーキ音とクラクションの音が響いた。

(もうだめだ……)

心はそう嘆いていた……が。

体は自然と足に力を入れ、寸前のところで脇に転がり、トラックを避けていた。

トラックは何事も無かったかのようにそのまま走り去り、見えなくなった。


ニャー

猫が助けたお礼かのように手を舐めてくる。

優しく撫でてやると嬉しそうにもう一度鳴いた。

そして、猫は脇道に入ると、手をこまねいて俺を呼ぶ。

「なんだ?呼んでるのか?」

わからないが、体は自然とついて行っていた。

薄暗い脇道を数分進んだあと、猫は立ち止まった。

「どうやら、見つかったようだね」

薄暗い影の奥から、おばあさんがゆっくりと現れた。

「あ、あんた誰だ……」

「その猫の飼い主さ……あと」

おばあさんはニヤリと笑い、どこから取り出したのか、杖を振った。

「異界への送り人、さ」


俺の意識はそこで途切れた。

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