第4話 ギルドにて

 「す、すみませんがこれはどちらで手に入れたものですかっ!?」


 俺たちが透明な魔石を差し出すと、ギルド員の眼鏡男は椅子から飛び上がらんばかりに大げさに驚いた。

 どうしよう。一階層にオークが出たなんて言って信じてもらえるだろうか。

 迷って隣のモニカちゃんの顔を見ると、彼女はこくりと頷いた。

 話していいという意味だろう。勇気を得て話すことにした。


 「それが……」


 第一階層にオークが出てそれと戦ったこと、倒すとこの透明の魔石が出てきたことをギルド員に話した。


 「巫女として誓って言いますが、結界が破られたりなどしていません。それなのにオークが現れたのです」


 モニカちゃんがきっぱりとした口調で話す。普段ふわふわと話す彼女しか知らなかったから、なんだかドキドキとしてしまった。

 彼女の言葉を聞くとギルド員はすぐさま深刻な顔つきになった。


 「……すみません。上と話してきますので、少々お待ちいただけますか」


 急ぐ理由もないので、俺たちは頷いて了承した。

 ギルド員の男が戻ってくるのを待つ間、俺はやっと何か大変なことが起こっているのだと実感した。

 オークが現れたと思ったらそれに吹っ飛ばされ、何故か怪我が治ってしまったり、魔石が透明だったり……ああ、あとSランク冒険者としていた約束もあった。明日は忘れずに向かわなければ。


 「お待たせいたしました」


 しばらくしてギルド員が戻ってきた。


 「まず第一階層におけるオークの出現に関してですが、此方で調査を行います」


 眼鏡のつるを押し上げてギルド員がつらつらと押し述べる。

 調査が完了するまではEランク冒険者の<<迷宮>>への立ち入りを規制すること、それ以上のランクの冒険者にも注意喚起を行うことなどをギルド員が淡々と述べた。


 「え、それじゃあ俺<<迷宮>>に入れないんですか?」


 「Eランクとは冒険業のみで生計を立てられないレベルの冒険者、という基準で設定されております。なので大抵の方は副業をやってておられるでしょうから、<<迷宮>>探索を規制しても比較的問題はない。そういうことで有事の際には真っ先に規制されるランクでもあります」


 感じた絶望が顔に出てしまったのか、ギルド員が俺の顔色を見てくすりと微笑んだ。


 「ですがご安心ください。貴方がたの納品された魔石は確かにオークの魔石であると確認されました。よってノエル様はオーク討伐の功績によりDランク昇格試験の権利が与えられました。それが二つ目のお知らせです」


 「え……っ!?」


 まさかの展開に動揺する。


 「いや、でも、オークを倒したのはモニカちゃんだし、モニカちゃんの方が昇格するべきでは!?」


 喜ぶべきところなのに、驚きのあまりつい反論してしまった。


 「モニカ様はすでにDランク冒険者でございます」

 「え、そうだったんだ」


 モニカちゃんを見る。彼女は恥ずかしげにこくりと頷いた。

 考えてみれば一人で<<迷宮>>に潜って結界の点検やらなんやらをしなければならないのだから、Dランク以上の実力はあるに決まってるのだった。


 「それにトドメを刺すだけが冒険者の力ではございません。パーティの盾となり身を挺すのも役割の一つ。見ればオークと戦った後だというのに傷の一つも負っていない様子。Dランク昇格試験に挑むだけの実力は充分にあると判断いたしました」


 ギルド員の男が俺を称えるように微笑したのに対し、俺は口を噤んでしまった。

 俺が無傷に見えるのは変な靄が傷を治してしまったからだ。俺の実力ではない。

 俺はただ単に突撃してやられて、また突撃してその隙にモニカちゃんが魔術を打ち込んだだけだ。


 「それと最後に魔石の買い取り金額についてでございます。オーク出現の情報を報せてくれたことを評価してこちらは多少色をつけさせていただきます。まず、魔石自体の値段ですが……」


 ごくりと唾を飲む。

 オークの魔石は大きさと魔力属性の偏り具合にもよるが銀貨3,4枚ほどで引き取ってもらえるはずだ。それだけあれば節約さえすれば三日は生きられる。

 ただ色が変なのでそこが減額されてしまうんじゃないだろうか。


 「この透明に近い色、これは非常に希少でして魔力に一切の偏りがない証拠です。どのような魔道具にでも使用できますので魔術師からの人気が高いものですね。」


 「え、そうだったんだ」


 どうやらハズレかと思った魔石は反対に良いものだったようだ。なら値が上がるのだろうか。


 「ええ、一般に透徹魔石などと呼称されております。特にオークから透徹魔石が採れたという前例は聞いたことがないので、価値も高いでしょう。そのことを踏まえまして……金貨3枚となります」


 「き、金貨!?」 「3枚っ!?」


 あまりの衝撃に俺とモニカちゃんと二人で叫んでしまった。

 銀貨20枚で金貨1枚分の価値となる。そして金貨3枚は俺の酒場の店員としての一ヶ月の給料とほぼ同額だ。しかもそこから宿代に金貨2枚を差し引かれてしまうので俺の手元に残るのは金貨1枚だけなのだ。


 「私としてはもう少し高い金額にすべきとも思ったのですがギルド長が……いえ、失礼。これに情報料分の金貨1枚を上乗せして、総額金貨4枚で買い取ろうと思います。いかがでございましょうか」


 「「いかがも何も充分です!」」


 モニカちゃんと口を揃えて答えてしまった。

 彼女と二人で山分けしても金貨2枚だ。死を覚悟したとはいえ、たった一回の討伐で一ヶ月は暮らせるだけの金を手に入れてしまうなんて。新米冒険者の俺には到底信じられないことだったし、モニカちゃんも似たり寄ったりらしい。


 「これだけあれば装備を新調できる……」


 頭に浮かんだことを思わず口から零してしまう程度には浮かれていた。


 「お二方ともご納得されたようで何よりです。それではこちらが魔石の代価金貨4枚です」

 「ははあ……!」


 二人しておずおずと両手を差し出し、ギルド員さんが微笑ましそうにそれぞれの手に金貨を2枚ずつ乗っけてくれた。


 「これ、どうしよう。何に使おっかな」


 モニカちゃんが手の中の二つの金貨を見下ろして照れ笑いを浮かべている。

 彼女のその表情に胸が高鳴る。

 気が付いたら俺は口を開いてこう言っていた。


 「あ、あの、よかったらこの後、一緒に食事でも行かない?」


 モニカちゃんは驚きに目を見開いたかと思うと、顔を赤くさせながらにこりと笑ったのだった。


 「うん、大稼ぎした後は冒険者らしくぱーっとお祝いしないとね!」


 彼女のその笑顔が可愛くて、胸のドキドキが止まらなかった。

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